教育の社会理論の可能性 特集の趣旨と教育研究の課題

本論文の目的は,第1に,本号の特集の趣旨説明を行い,第2に,特集論文の内容をまとめ,それらに共通する新たな方向性を模索し,第3に,近年の欧米の教育社会学研究の理論に対するスタンスについて概略を提示することにある。  第1に,教育社会学研究におけるポストモダン理論の流行後,2000年代に入ると理論の拡散状況が生じている。そのなかで本特集では,教育社会学の理論の新たな可能性を,教育の近接領域にも拡大して検討することを意図した。  第2に,具体的には,1.ポストモダン理論の現在,2.ギデンス,ルーマンの理論の可能性,3.社会哲学,社会福祉学などの近接領域の理論の,教育を分析する際の有効性の3点を検討...

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Published in教育社会学研究 Vol. 94; pp. 137 - 149
Main Author 吉田, 文
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本教育社会学会 2014
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ISSN0387-3145
2185-0186
DOI10.11151/eds.94.137

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Summary:本論文の目的は,第1に,本号の特集の趣旨説明を行い,第2に,特集論文の内容をまとめ,それらに共通する新たな方向性を模索し,第3に,近年の欧米の教育社会学研究の理論に対するスタンスについて概略を提示することにある。  第1に,教育社会学研究におけるポストモダン理論の流行後,2000年代に入ると理論の拡散状況が生じている。そのなかで本特集では,教育社会学の理論の新たな可能性を,教育の近接領域にも拡大して検討することを意図した。  第2に,具体的には,1.ポストモダン理論の現在,2.ギデンス,ルーマンの理論の可能性,3.社会哲学,社会福祉学などの近接領域の理論の,教育を分析する際の有効性の3点を検討することとした。6本の論文からは,1.教育の射程を生涯教育に拡張して理論化すること,2.ベックなどが提唱する「個人化」という視点が不可欠になっていること,3.市民という政治主体とその形成に関する教育の役割への着目が,3つの共通する新たな方向性であることが明らかになった。  第3に,イギリスの教育社会学では,2000年代中頃まで主流であった文化的転回論から,近年では伝統的な「政治算術」が復活し,しかしそこに主体的行為を組み込んだ理論化が図られている。アメリカでは量的研究が主であり,理論不在の状況があることが指摘されており,英米における理論の扱い方は異なるようだ。  こうしたなか日本の教育社会学研究が,理論をどのように扱っていくのか,それが問われている。
ISSN:0387-3145
2185-0186
DOI:10.11151/eds.94.137