家事スキルの格差が家事分担のジェンダー不平等をもたらすメカニズム 日本における要因配置実験に基づく検討

これまでの研究では,家事分担の平等化に遅れが生じる理由の1つとして家事スキルのジェンダー格差が重要であることが指摘されてきた.本稿の目的は,カップルにおける家事スキルの格差が各パートナーの家事行動に影響を与えるのか,どのようなメカニズムによって影響を与えるのかを検討することにある.具体的には,専門化理論や地位特性理論を用いて異なるメカニズムに関する仮説を導出し,日本在住の20~50代の男女を対象にした要因配置実験を用いて検証する.家事意欲を従属変数とした分析結果は,専門化メカニズムから予想されたように家事スキルの格差が家事意欲に影響を与える一方で,その効果の大きさは有償労働での比較優位の大きさ...

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Published in社会学評論 Vol. 75; no. 1; pp. 93 - 108
Main Author 尾藤, 央延
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本社会学会 2024
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ISSN0021-5414
1884-2755
DOI10.4057/jsr.75.93

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Summary:これまでの研究では,家事分担の平等化に遅れが生じる理由の1つとして家事スキルのジェンダー格差が重要であることが指摘されてきた.本稿の目的は,カップルにおける家事スキルの格差が各パートナーの家事行動に影響を与えるのか,どのようなメカニズムによって影響を与えるのかを検討することにある.具体的には,専門化理論や地位特性理論を用いて異なるメカニズムに関する仮説を導出し,日本在住の20~50代の男女を対象にした要因配置実験を用いて検証する.家事意欲を従属変数とした分析結果は,専門化メカニズムから予想されたように家事スキルの格差が家事意欲に影響を与える一方で,その効果の大きさは有償労働での比較優位の大きさによって左右されないことを示していた.家事スキルの格差の効果について,ジェンダーステレオタイプによる評価メカニズムから予想されるような,ヴィネットパーソンの性別や性別と家事スキルに関する地位信念による違いはみられなかった.以上の結果は,家事スキルの格差が,不平等な家事分担の合理化の方便としてだけ機能するわけではなく,家事行動そのものに影響を与える可能性が高いことを示唆する.ジェンダーに基づく社会化によって男女で異なる家事スキルを身につけているという仮定が成り立つ場合には,家事スキルが家事労働での生産性に基づく専門化メカニズムを通じて不平等な家事分担をもたらす可能性を示している.
ISSN:0021-5414
1884-2755
DOI:10.4057/jsr.75.93