母と子の行動パターン:保育園における出会いと別れ

子どもの社会的行動パターンにはどのようなものがあるか。これらの行動パターンには発育にともなう変化があるか。また,これらの行動パターンのもつ意味あるいは重要性とは何か。以上の問題点を明らかにすることが本研究の目的である。このため,ヒトを対象とする行動学の観点から,東京郊外の公立保育園において直接観察を行なった。観察の焦点は,母親と子どもの相互作用にあてられ,社会的情況として,登園時における「母の子の別れ」と母親の迎えにみられる「母と子の出会い」をとりあげた。同様の研究には英国幼稚園児を対象にした BLURTON JONES and LEACH(1972)がある。 観察は2回に渡っておこなわれ,第...

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Published in人類學雜誌 Vol. 91; no. 4; pp. 435 - 454
Main Author 佐野, 敏行
Format Journal Article
LanguageEnglish
Japanese
Published 日本人類学会 1983
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Summary:子どもの社会的行動パターンにはどのようなものがあるか。これらの行動パターンには発育にともなう変化があるか。また,これらの行動パターンのもつ意味あるいは重要性とは何か。以上の問題点を明らかにすることが本研究の目的である。このため,ヒトを対象とする行動学の観点から,東京郊外の公立保育園において直接観察を行なった。観察の焦点は,母親と子どもの相互作用にあてられ,社会的情況として,登園時における「母の子の別れ」と母親の迎えにみられる「母と子の出会い」をとりあげた。同様の研究には英国幼稚園児を対象にした BLURTON JONES and LEACH(1972)がある。 観察は2回に渡っておこなわれ,第1回目では70組の母子のペア(子どもの週令30から290),第2回目では82組の母子のペア(子どもの週令56から316)を対象とした。資料のまとめは,26週(半年)間隔でおこなった(例えば,週令グループIは,30から55週令の子どもを含む)。 分析は身体的接触の有無によって分けて行なった。別れにおける身体的接触をともなわない行動パターンには,子どもの「手を振る」「バイバイという」「泣く」「振り向く」「話す」「うなつく」「呼ぶ」「足踏み」「はねる」があり,母親の「手を振る」「バイバイという」「話す」「呼ぶ」があった。 身体的接触をともなう行動パターンには,子どもの「抱く」「触れる」「握む」「引く」があり,母親の「抱く」「触れる」「握む」「引く」「軽く叩く」があった。さらに,母子に共通する「手つなぎ」「指切り」「握手」があった。身体的接触のないものとあるものを比較すると,あるもののが方子どもの発育にともなって急激な頻度の低下を示すことが明らかになった。 出会いにおける身体的接触をともなわない行動パターンには,子どもの「腕を伸ばす」「腕を上る」「差出す」「指示す」「投げる」「足踏み」「跳ねる」「ゆする」「話す」「しぐさを示す」があった。母親のは明らかに出来なかった。 身体的接触をともなう行動パターンには,子どもの「抱く」「触れる」「握む」「叩く」「軽く叩く」「引く」「押す」があり,母親の「抱く」「触れる」「握む」「軽く叩く」があった。また,母子に共通する「手つなぎ」があった。出会いの場合も別れの場合と同様に,身体的接触のある方がないものより子どもの発育にともなって頻度が急激に減少することが明らかになった。 母子間の身体的接触には子どもの発育上に重要な意味があると指摘されている(BOLBY,1969,MONTAGU,1971)。そこで身体的接触をともなう行動パターンについて分析すると,身体的接触のみられた観察例の頻度が,別れの場合と出会いの場合にかかわらず,子どもの発育にともなって直線的に減少することが明らかになった(図1)。 また,母の子のどちらが身体的接触を導びいたのかを資料の整っている出合いの場合でみてみると2歳と3歳との間に変換点があると推定できた(図2)。さらに身体的接触を導いた出会いの頻度を母子別に積算すると4歳前後に別の変換点があると推定できた(図4)。 以上の分析から,母子間の身体的接触を通して母子間相互作用の一側面を明らかにしようとした。つまり,「2歳児の反抗」として知られる現象, TRIVERS(1974)の提示した「親子の葛藤」の概念そてし本研究で明らかになった身体的接触をともなう行動パタージの子どもの発育にともなう変化との間には密接な関連性があると指摘できよう。 最後に本研究の結果をもとに,母子間関係のモデルを提示した。このモデルは第2児あるいは第3児の要素を導入することにより母と複数の子どもとの関係,子ども同士の関係についての洞察をもたらすであろう。また,比較研究(文化間,母子と父子との比較,性差)のための基準となるであろう。
ISSN:0003-5505
1884-765X
DOI:10.1537/ase1911.91.435