大腰筋エクササイズが歩行機能及び中殿筋筋活動に与える即時効果について 2症例における症例報告を通じて
【はじめに】 股関節疾患患者の異常歩行に対して,中殿筋の筋力増強エクササイズ(以下ex)が中心に行われている.しかし,臨床において中殿筋のexのみでは異常歩行が残存することを経験する.近年,大腰筋は股関節の前方安定性に関与し,またインナーマッスルとしての機能も有すると言われており,大腰筋exにより,重心動揺が有意に改善したと報告されている.このため股関節疾患の場合,大腰筋は歩行の安定性に関与する重要な機能と考えられる. 【目的】 大腰筋exが即時的に歩行機能へ与える影響を調査し,考察を加えて報告する. 【対象】 症例1:60歳女性 右大腿骨頭壊死より右全人工股関節置換術(以下THA)を施...
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Published in | 九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 p. 157 |
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Main Authors | , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
九州理学療法士・作業療法士合同学会
2009
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Subjects | |
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ISSN | 0915-2032 2423-8899 |
DOI | 10.11496/kyushuptot.2009.0.157.0 |
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Summary: | 【はじめに】 股関節疾患患者の異常歩行に対して,中殿筋の筋力増強エクササイズ(以下ex)が中心に行われている.しかし,臨床において中殿筋のexのみでは異常歩行が残存することを経験する.近年,大腰筋は股関節の前方安定性に関与し,またインナーマッスルとしての機能も有すると言われており,大腰筋exにより,重心動揺が有意に改善したと報告されている.このため股関節疾患の場合,大腰筋は歩行の安定性に関与する重要な機能と考えられる. 【目的】 大腰筋exが即時的に歩行機能へ与える影響を調査し,考察を加えて報告する. 【対象】 症例1:60歳女性 右大腿骨頭壊死より右全人工股関節置換術(以下THA)を施行.症例2:52歳女性 変形性股関節症より右THAを施行. 【方法】 大腰筋ex前後の測定項目として,1歩幅2歩行スピード3中殿筋の平均筋活動量及び4ピーク出現時期を比較した.1・2は10m歩行中に測定した.3・4は表面筋電図Tele Myo2400(Noraxon社)を用いた.測定対象筋である中殿筋は腸骨稜と大転子の中点を測定部位とした.得られた筋活動を最大筋活動で除し%MVCを求め,3は検査側の接踵から離指までの%MVCを、4は立脚期全体を100%中とし踵接地から最大筋活動が出現するまでの時期(%)とその時の%MVCを用いた.また,中殿筋筋活動の波形を視覚的に比較した.大腰筋exの方法は,端座位にて大腿後面が座面から浮く程度に股関節屈曲を3秒間保持し,3秒間休憩を左右交互に各10回行なった.測定は10m歩行を3回実施後,大腰筋ex,その直後に10m歩行を3回実施し,平均を算出した.尚,本研究は当院の倫理委員会より承認を受けている. 【結果】 症例1:大腰筋ex前後で歩幅は1.1cm増加.歩行スピードは0.64秒改善.平均筋活動は両側で増加.ピーク出現時期は健側で8%の138.6%MVCから4%の175.6%MVCに増加,患側で18%の68.1%MVCから24%の74.5%MVCに増加した.症例2:歩幅は2.1cm増加.歩行スピードは0.7秒改善.平均筋活動は両側で増加.ピーク出現時期は両側ともに著明な変化は認められなかった.しかし,症例1,2ともに中殿筋筋活動の波形は収縮・弛緩の区別が明確になった. 【考察】 大腰筋exの即時効果として,ex前では中殿筋の持続的収縮が見られていたが,中殿筋筋活動の収縮・弛緩の区別が明確になり,正常歩行の波形に近づいた.これは大腰筋の機能である重心を跨いで腰椎・骨盤・股関節を連結する点,両側大腰筋の収縮により腰椎の圧縮機能を有する点から,下部体幹の安定性が増すことで中殿筋が発揮しやすくなったためと考えられる.このため,一側支持期における重心動揺が改善されたために,歩幅・歩行スピードの増加につながったと考えられる. |
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Bibliography: | 157 |
ISSN: | 0915-2032 2423-8899 |
DOI: | 10.11496/kyushuptot.2009.0.157.0 |