HMDを用いた左半側空間強制使用訓練が左半側空間無視患者に及ぼす影響 一症例を通して

【はじめに】  半側空間無視(以下USN)は、Heilmanらにより大脳半球損傷の反体側に提示された刺激を報告したり、刺激に反応したり、与えられた刺激を定位することの障害と定義されている。  近年、プリズム順応や頚部への振動刺激等の新たなアプローチが報告されている。中でも、杉原らは左空間に対する持続的注意喚起によるUSNの改善を示唆している。  今回、我々はヘッドマウントディスプレイ(以下HMD)を用いて左USNを呈した症例に対し、左空間の強制使用訓練を実施した。結果、書面検査、ADL場面において改善が見られたため以下に報告する。 【症例紹介】  50代、女性。診断名は脳出血、2009年12月...

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Published in九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 p. 263
Main Authors 渡邊, 誠司, 大戸, 元気, 加藤, 貴志
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 九州理学療法士・作業療法士合同学会 2010
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Summary:【はじめに】  半側空間無視(以下USN)は、Heilmanらにより大脳半球損傷の反体側に提示された刺激を報告したり、刺激に反応したり、与えられた刺激を定位することの障害と定義されている。  近年、プリズム順応や頚部への振動刺激等の新たなアプローチが報告されている。中でも、杉原らは左空間に対する持続的注意喚起によるUSNの改善を示唆している。  今回、我々はヘッドマウントディスプレイ(以下HMD)を用いて左USNを呈した症例に対し、左空間の強制使用訓練を実施した。結果、書面検査、ADL場面において改善が見られたため以下に報告する。 【症例紹介】  50代、女性。診断名は脳出血、2009年12月発症、左片麻痺。高次脳として、左USN、注意障害を認める。行動性無視検査(以下BIT)129点、書面検査上軽度の無視を示した。日常生活のUSNを評価するCBS16/30点、更衣、トイレ動作、歩行にて中等度の無視が見られた。身体機能として、12段階グレード上肢5、手指7、下肢7。歩行は短下肢装具と4点杖を使用し見守りレベル。歩行中、自発的に左に曲がらないため見守りを外せない状態であった。 【方法】  HMDとは、ビデオ等に接続する事で映像を視聴する事が出来るゴーグル状のポータブルディスプレイである。これまで、HMDをUSNの治療に応用した報告が多数なされている(杉原、佐々木)。特徴としてはビデオカメラと接続し、そのビデオカメラで症例の右側より撮影した左側空間を視聴する事が可能となる。この特徴を活かし、左側空間を強制使用する訓練を行った。実際の訓練として、USNトレーナーボードを症例の左側に設置する。USNトレーナーボードは、56個のボタンがランダムに光点を発する事で視覚性注意訓練が可能である。そして、症例はHMDを装着しビデオカメラを通して左側のUSNトレーナーボードを視聴する。椅子座位にて点灯したボタンを右手で押してもらう事で、左空間への持続的注意喚起を行った。訓練頻度は週6日、2週間、HMD訓練開始前後でBIT、CBSを評価した。なお、事前に症例に対して訓練に対する説明を行い、同意を得た上で訓練を行った。 【結果】  実施前後でBIT129点→136点、CBS16点→8点と改善した。ADL場面では主に更衣、トイレ動作、歩行に無視の軽減が見られた。特に、歩行では左側に対して曲がれるようになり生活範囲の拡大が可能となった。 【考察】  今回、我々は発症から4ヶ月を呈した左USN患者に対し、HMDを用いて左側空間の強制使用訓練を行った。杉原らは、USN症例にHMDを用いる事で頭部の左回旋が多く見られ、書面課題の改善が生じたと報告している。症例に対して、左空間の強制使用により訓練中の頭部、体幹の左回旋が認められ、身体的にも左空間認識を行えたことで無視の改善に繋がったのではないかと考える。今後は症例数を重ね、より効果的なアプローチを検討していきたい。
Bibliography:335
ISSN:0915-2032
2423-8899
DOI:10.11496/kyushuptot.2010.0.263.0