脳梗塞片麻痺患者の上肢機能の廃用について 強制把握の抑制に振動刺激を用いて

【はじめに】 強制把握とは、触圧覚刺激により把握反射が誘発され、自分の意思では手を離せなくなる状態であり、近年、強制把握反射に対する振動刺激の有効性について報告がみられている。今回、脳出血後2ヶ月経過した時点で強制把握の認められる患者に対して振動刺激を用いて、上肢機能及びADLの改善を認めた症例について報告する。 【症例紹介】 68歳、男性 診断名:右前頭葉皮質下出血。平成19年9月に発症。他院での2ヶ月の入院後、当院へリハビリ目的にて入院。 初期評価(平成19年11月27日) 主訴:「左手で一度握ったら、なかなか離れない」 Br.stage:V-2:V-3:V-2 grade10:11:10...

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Published in九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 p. 208
Main Authors 小松, 由佳, 竹村, 仁, 徳田, 幸之介
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 九州理学療法士・作業療法士合同学会 2008
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ISSN0915-2032
2423-8899
DOI10.11496/kyushuptot.2008.0.208.0

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Summary:【はじめに】 強制把握とは、触圧覚刺激により把握反射が誘発され、自分の意思では手を離せなくなる状態であり、近年、強制把握反射に対する振動刺激の有効性について報告がみられている。今回、脳出血後2ヶ月経過した時点で強制把握の認められる患者に対して振動刺激を用いて、上肢機能及びADLの改善を認めた症例について報告する。 【症例紹介】 68歳、男性 診断名:右前頭葉皮質下出血。平成19年9月に発症。他院での2ヶ月の入院後、当院へリハビリ目的にて入院。 初期評価(平成19年11月27日) 主訴:「左手で一度握ったら、なかなか離れない」 Br.stage:V-2:V-3:V-2 grade10:11:10  ROM:左肩関節 屈曲90°外転95° MMT:右上下肢4 左上下肢4- 握力:右25.0kg 左11.0kg STEF:右85点 左9点 高次脳機能障害:強制把握、全般性注意障害 ADL: FIM117/126点 食事;茶碗から手が離れない 更衣;下衣の引き上げが不十分 入浴;手すりを離せず、出入りが不安定 【訓練内容】 訓練開始時に振動刺激を麻痺側掌手面に5分間入力しながら、手指の「握り」と「離し」の訓練を行った。用いた機材は一般的な家庭用のマッサージ機器(オムロン社製マッサーシ゛ャー60Hz)を使用した。 この刺激入力を5分間実施したのちに、(1)上肢機能訓練(客体移動訓練、自己教示法等)、(2)趣味活動(妻と共に園芸)、(3)ADL訓練(更衣動作、食事動作等)を施行した。 【最終評価】 主訴:「手が離せるようになった」 Br.stage:V-2:V-3:V-2 grade10:11:10 ROM:左肩関節 屈曲115°外転100° MMT:右上下肢4 左上下肢4- 握力:右28.0kg 左13.0kg STEF:右85点 左27点 高次脳機能障害:強制把握減弱、全般性注意障害 ADL:FIM121/126点  食事;茶碗の持ち離しスムーズ。薬袋も破ることも可能  更衣;下衣から手が離れる  入浴;手すりから手が離れ、安定した浴槽の出入り可能 【強制把握の機序について】 振動刺激が強制把握を抑制する機序については(1)手掌への強い振動刺激による同部位への感受性低下、(2)筋紡錘を含む固有感覚入力の増加を介した補足運動野の賦活(3)脊髄レベルでの把握反射の抑制といわれている。これらのメカニズムのいずれの関与が大きいかは、今後の振動刺激時の脳のイメージングや関連の研究によって明らかになると思われる。 【考察】 利き手交換など使用しやすい手で代償することで、ADLが早期に自立していくことは重要だが、そこには学習された不使用を招く恐れが少なからずある。不使用は容易に使わない麻痺手を生み出し、廃用症候群を作り出してしまうことは無いだろうか。今回は、この悪循環を断ち切るための一つの方法として振動刺激の導入を試みた。それにより、強制把握が抑制され、その状態下で作業療法を実施した結果、廃用に陥らずに、ADLで『使う手』にすることができたと考えた。
Bibliography:208
ISSN:0915-2032
2423-8899
DOI:10.11496/kyushuptot.2008.0.208.0