在宅高齢者の主観的健康感 健常及び疾患別の特徴

【目的】  本研究の目的は、在宅で生活する高齢者の主観的健康感をWHO's心の健康度インベントリー(The Subjective Well-being Inventory ;SUBI)(Nagpal & Sell,1985;Sell & Nagpal,1992)を用いて調査し、健常高齢者及び慢性疾患を有する高齢者の疾患別(整形外科的疾患、脳血管障害後遺症、内科的疾患)における主観的健康感の特徴を検討することである。 【方法】  対象は、健常な在宅高齢者(以下、健常高齢者)31名、変形性関節症や腰痛症などの整形外科的疾患を有する在宅高齢者(以下、整形疾患高齢者)36名、...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published in九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 p. 72
Main Authors 津田, 彰, 稲谷, ふみ枝, 村田, 伸
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 九州理学療法士・作業療法士合同学会 2004
Subjects
Online AccessGet full text
ISSN0915-2032
2423-8899
DOI10.11496/kyushuptot.2004.0.72.0

Cover

More Information
Summary:【目的】  本研究の目的は、在宅で生活する高齢者の主観的健康感をWHO's心の健康度インベントリー(The Subjective Well-being Inventory ;SUBI)(Nagpal & Sell,1985;Sell & Nagpal,1992)を用いて調査し、健常高齢者及び慢性疾患を有する高齢者の疾患別(整形外科的疾患、脳血管障害後遺症、内科的疾患)における主観的健康感の特徴を検討することである。 【方法】  対象は、健常な在宅高齢者(以下、健常高齢者)31名、変形性関節症や腰痛症などの整形外科的疾患を有する在宅高齢者(以下、整形疾患高齢者)36名、脳梗塞や脳出血などによる脳血管障害後遺症を有する在宅高齢者(以下、脳血管障害高齢者)22名、糖尿病や腎臓疾患などの内科的疾患を有する在宅高齢者(以下、内科疾患高齢者)23名の計112名である。対象者の内、健常高齢者はD医療系専門学校に通学する1年生の祖父母であり、定期的な通院及び要介護認定を受けていない者とした。整形疾患高齢者はS整形外科医院に1ヶ月以上通院している者であり、脳血管障害高齢者はO病院に3ヶ月以上通院している者、また、内科疾患高齢者はN内科医院に1ヶ月以上通院している者であった。いずれも、週1回以上の頻度で通院していることを条件とした。なお、対象者は全て65歳以上の自宅で生活している高齢者であり、高次脳機能障害が無く、福岡県内及びそれに隣接する佐賀県鳥栖市に居住している者に限定した。  本研究で用いた主観的健康感尺度SUBIは、大野ら(2001)が日本語に翻訳したものを用いた。SUBIは、40項目の質問から構成され、回答は「非常にそう思う」「ある程度そう思う」「あまりそう思わない」などの3件法で行うようになっている。評価は心理的、身体的、社会的側面からの健康感をポジティブな側面である「心の健康度」19項目とネガティブな側面である「心の疲労度」21項目の2つから行われる。さらに、下位項目として11項目に分類されており、全ての項目において得点が高いほど良い状態を表している。  統計処理については、年齢及びSUBI得点の4群間の比較は一元配置分散分析を用いて検討し、その後、Scheffeの多重比較検定を行った。SUBIの得点区分に分類した人数の割合の比較には、Fisherの直接確率計算法を用い、性差の比較は対応のないt検定を行った。 【結果】  対象者全体の平均年齢は74.2歳であり、健常高齢者及び各疾患の群別比較において、有意な年齢差は認められなかった。  対象者の主観的健康感は、SUBIの標準化された得点区分に従うと、ポジティブ感情(心の健康度:平均42.1±6.0、高得点群55.4%、中間得点群42.9%、低得点群1.8%)、およびネガティブ感情(心の疲労度:平均51.2±5.1、高得点群76.8%、中間得点群17.0%、低得点群6.3%)ともに得点は高かった。一方、性差は認められなかった。さらに、健常、整形疾患、内科疾患、脳血管障害の4群間におけるSUBI得点の比較から、とくに、内科疾患群の健康感の低下が見出された(p<0.01)。SUBI下位項目に関しては、健常群は「社会的なつながり」の得点が他の群より有意に高く、「家族との関係」が有意に得点が低かった。脳血管障害群では「家族との関係」の得点が有意に高く、「社会的なつながり」が健常高齢者と比較し有意に低かった。内科疾患群は全般的に主観的健康感が低い値を示したが、とくに「身体的健康感」の得点が他の群より有意に低かった。整形疾患群は、健常群と類似した特徴を示した。 【考察】  これらの知見より、今回対象とした在宅で生活する高齢者の主観的健康感は一様なものではなく、有している疾病や障害により、ある一定の特徴が認められた。本結果は、高齢者の主観的健康感を高めるための取り組みが、画一的なものでは不十分であることを示唆した。すなわち、健常高齢者の主観的健康感を高めるためには、「社会的なつながり」や「社会的な支え」といった社会生活を充実させることはもとより、「配偶者や子供との良好な人間関係」を築くようなアプローチが効果的であることが示唆された。一方、脳血管障害高齢者には、「社会的なつながり」や「社会的な支え」を改善させるような取り組みが必要と思えた。また、内科疾患高齢者には、まず、疾病による症状の軽減を図ることを最優先に考えることが、主観的健康感を高めることに繋がる可能性が示唆された。
ISSN:0915-2032
2423-8899
DOI:10.11496/kyushuptot.2004.0.72.0