脳損傷者の歩行能力改善におけるSwitch-ESの有効性について 新たな随意運動介助型電気刺激の試行

【はじめに】  近年ニューロイメージング技術の発達により中枢神経の可塑性について明らかになってきており、脳損傷者のリハビリにおいて治療効果の改善が期待されている。中でも、電気刺激療法では随意運動と電気刺激を連動させる随意運動介助型(IVES)が有効とされている。しかし、現状では上肢機能についての報告が多く、歩行能力についての報告は少ない。今回、我々は脳卒中左片麻痺患者に対し、セラピストのスイッチ操作により、狙ったタイミングでの通電が可能なSwitch-triggered electric stimulation(Switch-ES)を考案し、歩行練習中に電気刺激を行った。その結果、歩行能力の改...

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Published in九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 p. 98
Main Authors 小嶋, 加代子, 大戸, 元気, 渡邊, 誠司, 加藤, 貴志, 一丸, 慎吾
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 九州理学療法士・作業療法士合同学会 2010
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ISSN0915-2032
2423-8899
DOI10.11496/kyushuptot.2010.0.98.0

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Summary:【はじめに】  近年ニューロイメージング技術の発達により中枢神経の可塑性について明らかになってきており、脳損傷者のリハビリにおいて治療効果の改善が期待されている。中でも、電気刺激療法では随意運動と電気刺激を連動させる随意運動介助型(IVES)が有効とされている。しかし、現状では上肢機能についての報告が多く、歩行能力についての報告は少ない。今回、我々は脳卒中左片麻痺患者に対し、セラピストのスイッチ操作により、狙ったタイミングでの通電が可能なSwitch-triggered electric stimulation(Switch-ES)を考案し、歩行練習中に電気刺激を行った。その結果、歩行能力の改善につながったため以下に報告する。 【症例】  50代、女性。2009年12月右視床出血(脳室内穿破)にて発症。上田の12段階グレードにて左上肢5、手指7、下肢7。感覚は表在・深部ともに重度鈍麻。ADLは立位・歩行にて軽介助~見守り。高次脳機能障害は注意障害、半側空間無視が認められた。歩行状態はSemi-KAFO、四点杖(大)を使用し3動作前型。遊脚期において顕著に骨盤を挙上し、股関節外旋位での努力様の振り出しであった。又、時折著明なひきずりがみられ大きくふらついていた。 【方法】  Switch-ESでは、低周波刺激装置の配線に改良を加え、装置と電極間のコードにスイッチを設置している。このスイッチを操作することで電気刺激のタイミングをコントロールすることが出来る。歩行訓練時に股関節屈筋(主に大腿直筋)に電極を貼り付け、症例の下肢の振り出し(麻痺側遊脚前期~中期)にスイッチによる通電を症例の疲労をみながら10~20分間行った。訓練期間は約3週間であった。訓練前後で10m歩行、観察にて歩容を評価するWisconsin gait scale(以下、WGS)にて治療効果を検討した。なお、事前に症例に対して訓練に対する説明を行い、同意を得た上で訓練を行った。 【結果】  10m歩行では初期時50.48sec(32steps)、歩行率38.0steps/min。最終時は22.1sec(28steps)、歩行率は47.4steps/minと歩行速度、歩幅において改善を認めた。WGSは初期時33点、最終時は22点と11点の改善がみられた。最終時の歩行状態はAFOと四点杖(小)を使用し2動作前型にて見守りレベル。遊脚期での顕著な骨盤挙上、足底の引きずりが減少し、麻痺側振り出しのタイミングが良好となった。 【考察】  今回、我々は脳出血により左片麻痺を呈した症例に対してSwitch-ESを使用し、歩行能力に改善を認めた。鈴木は、大腿四頭筋に対して歩行前に電気刺激を行うことで歩容の改善を認めたとの報告がある。又、原によると上肢においては、麻痺筋に対する単純で受動的な電気刺激に比べ、IVESの方が促通効果に優れているとされている。本症例においては、Switch-ESにより随意的な振り出しと同時に大腿四頭筋に電気刺激を加えたことで、股関節伸筋群の緊張の抑制が図れ、麻痺側下肢に対しての促通効果が得られていると推察され歩行能力の改善につながったと考える。今後は症例数を重ね対象筋群、通電方法等、より効果的なアプローチを検討していきたい。
Bibliography:187
ISSN:0915-2032
2423-8899
DOI:10.11496/kyushuptot.2010.0.98.0