恐怖 回避モデルを呈した脊椎圧迫骨折患者に対し,活動日記と自己決定に基づく運動療法を導入した理学療法の経験

【はじめに】脊椎圧迫骨折(VCF) 患者は急性腰背部痛により運動機能が低下し,痛みが長引くと恐怖- 回避思考に陥るケースも少なくない.急性痛に対して,痛み日記を使用した痛みのモニタリングや身体活動量のペーシング,漸増的運動療法を基本に,運動アドヒアランスを高めていくことが重要と報告されている( 沖田ら,2019).そこで今回,痛みの恐怖- 回避思考に陥ったVCF 患者に対し,痛みのモニタリングや身体活動量のペーシング,自己決定に基づく運動療法を実践した結果,良好な成績が得られたため報告する.【症例紹介および初期評価】症例は80 代女性でX 日鉢植えを運搬した際,腰部の激痛が出現したため当院を受...

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Published in九州理学療法士学術大会誌 p. 112
Main Authors 中山, 七湖, 後藤, 響, 片岡, 英樹, 山下, 潤一郎
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会 2021
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Summary:【はじめに】脊椎圧迫骨折(VCF) 患者は急性腰背部痛により運動機能が低下し,痛みが長引くと恐怖- 回避思考に陥るケースも少なくない.急性痛に対して,痛み日記を使用した痛みのモニタリングや身体活動量のペーシング,漸増的運動療法を基本に,運動アドヒアランスを高めていくことが重要と報告されている( 沖田ら,2019).そこで今回,痛みの恐怖- 回避思考に陥ったVCF 患者に対し,痛みのモニタリングや身体活動量のペーシング,自己決定に基づく運動療法を実践した結果,良好な成績が得られたため報告する.【症例紹介および初期評価】症例は80 代女性でX 日鉢植えを運搬した際,腰部の激痛が出現したため当院を受診し,MRI にて第12 胸椎VCF と診断され,急性期病棟に入院となった.入院後より鎮痛薬や安静度に関して医療従事者の家族に連絡し,主治医の治療方針と家族の意見が異なる度に不安や不満を訴えていた.X+21 日に回復期病棟に転棟となり,その際の初期評価では,腰背部の日内の痛みはNRS で朝3 ~ 4, 昼1 ~ 2, 夕3 ~ 9,Pain Catastrophizing Scale(PCS)は38 点,Geriatric Depression Scale(GDS)-15 は5 点,Tampa Scale forKinesiophobia(TSK)-11 は32 点であった.また,最大握力は19.9kg,TUG および6 分間歩行距離(6MWD) は歩行器でそれぞれ14.1 秒,80m であり,平均歩数は1694 ± 396 歩,FIM 運動項目(mFIM) は60 点であった.また,「薬が変わったから痛みが増えた」,「家族から痛みがあったらリハビリは休んだほうがいいと言われた」など,痛みや活動に関する認知の歪みを認めた.以上から,本症例はVCF の受傷に伴い発生した急性腰背部痛により破局的思考や運動恐怖感が生じ,不活動や運動機能低下を招き,これらの悪循環を形成する恐怖- 回避思考に陥っていることが疑われた.さらに,主治医の治療方針と家族の意見の相違から不安の増大や痛みおよび活動に対する認知の歪みが生じ,それらが恐怖- 回避思考を助長していると推察した.【介入方法】痛みは一日を通して強弱があることの認識と,症例に適した身体活動量をペーシングするために痛み日記を導入した.痛み日記には,2 時間毎のNRS と1日の歩数を記載しモニタリングを行った.運動療法では運動アドヒアランスを向上させることを目的に,セラピストが運動内容の提示や目的の説明を行った.そして,負荷量や回数に関しては,症例に自己決定してもらい,徐々に漸増した.【経過および最終評価】痛みのモニタリングを行うことで,日内変動に関して「痛みがずっと強いわけではない」と認識された.また,運動療法として自重トレ- ニングや歩行器歩行から開始した.X+29 日の痛みの日内変動はNRS で朝2 ~ 4,昼1 ~ 2,夕1 であり,「リハビリしても痛みは強くなりません」と発言があり,歩数は2272 歩と増加し,重錘トレ- ニングや独歩練習に変更した.X+39 日の痛みはNRS で朝1 ~ 2,昼1 ~ 2,夕1 であり,「痛みを忘れている時もある」と発言があり,歩数は3616 歩にさらに増加し,屋外歩行練習や二重課題練習を開始した.退院時(X+48 日) では腰背部の日内の痛みは,NRS で朝1,昼0~ 1,夕0 ~ 1,PCS は13 点,GDS-15 は1 点,TSK-11 は31 点,最大握力20.1kg,歩行評価は独歩でTUG7.0 秒,6MWD520m,平均歩数5240 ± 713歩,ADL は独歩自立でmFIM87 点へと向上した.【まとめ】本症例において,痛み日記による痛みのモニタリングや身体活動量のペーシング,自己決定に基づいた運動療法を実践したことによって,認知の歪みや不活動の是正に繋がり,痛みの軽減や運動機能の向上に有効であったと考えられる.【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に沿って個人情報保護に配慮し,症例ならびにご家族に対し同意を得た.
ISSN:2434-3889
DOI:10.32298/kyushupt.2021.0_112