宇宙空間を想定した体重免荷が歩行に及ぼす影響 力学的エネルギーおよび筋活動の変化

【目的】 宇宙空間における有人活動には,安全かつ効率的な歩行様式を確立する必要がある.しかし火星や月のような微小重力環境を想定した歩行の検討は十分されていない.本研究では,微小重力環境を想定した体重免荷が歩行に及ぼす影響を,重心加速度と下肢表面筋電図を計測し,力学的エネルギーおよび筋活動の変化を検討した. 【方法】 対象は健常成人9名.課題は,速度を60 m/minに設定したトレッドミル歩行とした.体重免荷は固定式免荷装置を使用し,体重の0/6(無免荷),4/6(火星を想定)および5/6免荷(月面を想定)の3条件とした.事前に練習時間を設け,免荷量の低い順に実施した. 重心加速度の計測は,第三...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published in関東甲信越ブロック理学療法士学会 p. 192
Main Authors 武藤, 真利子, 小宅, 一彰, 山口, 智史, 河本, 尚子, 田辺, 茂雄, 大高, 洋平, 山田, 深, 長谷, 公隆, 大島, 博, 里宇, 明元
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会 2011
Subjects
Online AccessGet full text

Cover

Loading…
More Information
Summary:【目的】 宇宙空間における有人活動には,安全かつ効率的な歩行様式を確立する必要がある.しかし火星や月のような微小重力環境を想定した歩行の検討は十分されていない.本研究では,微小重力環境を想定した体重免荷が歩行に及ぼす影響を,重心加速度と下肢表面筋電図を計測し,力学的エネルギーおよび筋活動の変化を検討した. 【方法】 対象は健常成人9名.課題は,速度を60 m/minに設定したトレッドミル歩行とした.体重免荷は固定式免荷装置を使用し,体重の0/6(無免荷),4/6(火星を想定)および5/6免荷(月面を想定)の3条件とした.事前に練習時間を設け,免荷量の低い順に実施した. 重心加速度の計測は,第三腰椎棘突起部に固定した三軸加速度計を用い,サンプリング周波数60 Hzで記録した.力学的エネルギーは,加速度は30歩行周期分を加算平均した後,時間で積分した速度と変位から,運動エネルギーと位置エネルギーを算出した.それぞれ一歩行周期中の増加量を解析に用いた. 下肢表面筋電図は,右側の前脛骨筋(TA),内側腓腹筋(MG),大腿直筋(RF),内側ハムストリングス(MH),中殿筋(GM)の筋腹上に能動電極を貼付し,サンプリング周波数1 kHzで記録した.解析は,全波整流後30歩行周期分を加算平均し一歩行周期の積分値を算出した.また各免荷条件の積分値は無免荷に対する割合とした.また筋活動の違いから伸展筋群(MG,RF,GM),屈曲筋群(TA,MH)に分けた平均値を算出した.免荷量の変化に伴う影響を,一元配置分散分析で検討した.有意水準は5%とした. 【結果】 運動エネルギー増加量(J)は免荷により有意に減少した.位置エネルギー増加量(J)は有意な変化を認めなかった.伸展筋群の筋電量(%)は免荷により有意に減少したが,屈曲筋群は有意な変化を認めなかった. 【考察】 体重の免荷量を増加することによって,運動エネルギー増加量と筋活動量に有意な減少を認めた.免荷によって重心上昇に必要なエネルギーが補われ、立脚終期での下腿三頭筋による遠心性収縮や減速時の遠心性収縮による衝撃緩衝として働く下肢伸展筋群の筋活動が減少したためと考えられた.またトレッドミルを用いたことで,push-offによる推進や両脚支持期における減速が起こりにくくなり,免荷の増加によってそれらが助長されたためと推察される. 【まとめ】 本研究の成果は,宇宙空間における安全かつ効率的な歩行様式の確立を検討する上で,有意義な知見であると考えられる.
Bibliography:P1-8-078
ISSN:0916-9946
2187-123X
DOI:10.14901/ptkanbloc.30.0.192.0