膝蓋靭帯完全断裂に対する理学療法の経験 関節可動域の拡大とリスク管理について

【はじめに】膝蓋靭帯断裂は比較的まれな傷害であり,本疾患の理学療法に関する報告は殆どみられない。今回,膝蓋靭帯完全断裂の症例に対し,関節可動域の拡大とそのリスク管理に着目して理学療法を実施したので,その経過を報告する. 【症例及び現病歴】症例:34歳,男性,診断名:左膝蓋靭帯完全断裂,現病歴: 仕事中,強化ガラスに左膝をぶつけて受傷.その後,歩行困難となり,受傷から2病日目に整形外科受診し,膝蓋靭帯触知不可能,断裂疑いにて緊急MRI施行し,9病日目に入院.翌日,靭帯断裂縫合術を施行し,術翌日より理学療法開始となる. 【荷重と膝関節可動域の管理】術直後よりギプスシーネ固定を行い,患側はNWBにて...

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Published in関東甲信越ブロック理学療法士学会 p. 76
Main Authors 安田, 紀子, 井上, 宜充, 田村, 拓也, 近藤, 淳, 岡本, 賢太郎, 荒井, 哉美
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会 2008
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ISSN0916-9946
2187-123X
DOI10.14901/ptkanbloc.27.0.76.0

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Summary:【はじめに】膝蓋靭帯断裂は比較的まれな傷害であり,本疾患の理学療法に関する報告は殆どみられない。今回,膝蓋靭帯完全断裂の症例に対し,関節可動域の拡大とそのリスク管理に着目して理学療法を実施したので,その経過を報告する. 【症例及び現病歴】症例:34歳,男性,診断名:左膝蓋靭帯完全断裂,現病歴: 仕事中,強化ガラスに左膝をぶつけて受傷.その後,歩行困難となり,受傷から2病日目に整形外科受診し,膝蓋靭帯触知不可能,断裂疑いにて緊急MRI施行し,9病日目に入院.翌日,靭帯断裂縫合術を施行し,術翌日より理学療法開始となる. 【荷重と膝関節可動域の管理】術直後よりギプスシーネ固定を行い,患側はNWBにて安静.術後(POD)3週から屈曲制限付きの膝装具装着下にて1/3PWB開始.POD4週から0~60°passive ROMex,2/3PWB開始.POD5週から0~90°active ROMex開始.POD6週からFWB開始.POD7週から0~120°passive ROMex開始.POD9週に抜釘,ROMex制限.膝装具の屈曲角度の設定については,初期は0°とし,それ以降は許可された膝関節屈曲可動域範囲内で設定. 【治療アプローチ】(1)膝蓋骨モビライゼーション: 特に膝蓋骨下制方向への可動性の改善を図った.(2)創部周囲・膝蓋上包マッサージ:炎症による軟部組織の癒着や瘢痕化,膝蓋上包の癒着の予防と改善を図った.(3)膝関節ROMex:許可された可動域範囲内で,疼痛やendfeelを確認しながらmild ROMexからpassive ROMexへと徐々に行い,膝関節屈曲可動域の拡大を図った.また,膝蓋靭帯断裂部へのストレスが増大しないよう,膝蓋骨を他動的に下制しながら行った. 【理学療法最終評価(POD7週)】術創部・膝蓋骨周囲に疼痛・腫脹・浮腫・熱感を軽度認めるが,膝蓋骨の他動下制健側比1/3程度,膝関節屈曲可動域は105°まで改善. 【考察】本症例は,断裂部の長期固定を余儀なくされ,膝関節屈曲制限が起こることが予想された.膝関節屈曲可動域の拡大には,膝蓋骨の可動性や膝蓋骨周辺組織の柔軟性・伸張性の獲得が重要であると考えた.また,断裂部へのストレスをいかに回避し可動域の拡大を図っていくかが最大の焦点であり,それらリスク管理に配慮することは非常に重要だと思われた.POD9週目では,屋外歩行,階段昇降ともに自立,膝関節屈曲可動域は135°まで改善を示しており,今後も引き続き経過を追っていきたいと考える.
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ISSN:0916-9946
2187-123X
DOI:10.14901/ptkanbloc.27.0.76.0