運動後の筋グリコーゲン再合成におけるフィードバック機構

骨格筋は体重の話半分を占めることから, 人体最大の血糖処理器官と考えられる. 食後には膵臓からのインスリン分泌が増加することにより, 骨格筋の血糖取り込みが促進される. しかし, 運動後には血中インスリン濃度の上昇はみられない. それでも, 骨格筋の血糖取り込み反応は亢進する. これは, 運動後に骨格筋におけるインスリン感受性が高まることを意味し, 糖尿病の予防や治療に運動が有効である所以である. それでは, 運動後に筋のインスリン感受性が上昇する生理学的意味は何であろうか?これに関しては, 運動によって筋の重要なエネルギー源であるグリコーゲンが枯渇するので, 骨格筋は運動後にインスリン感受性...

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Published in新潟医療福祉学会誌 Vol. 2; no. 1; p. 101
Main Authors 川中健太郎, 佐野明子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 新潟医療福祉学会 01.12.2002
Niigata University of Health and Welfare
新潟医療福祉大学
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ISSN1346-8774

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Summary:骨格筋は体重の話半分を占めることから, 人体最大の血糖処理器官と考えられる. 食後には膵臓からのインスリン分泌が増加することにより, 骨格筋の血糖取り込みが促進される. しかし, 運動後には血中インスリン濃度の上昇はみられない. それでも, 骨格筋の血糖取り込み反応は亢進する. これは, 運動後に骨格筋におけるインスリン感受性が高まることを意味し, 糖尿病の予防や治療に運動が有効である所以である. それでは, 運動後に筋のインスリン感受性が上昇する生理学的意味は何であろうか?これに関しては, 運動によって筋の重要なエネルギー源であるグリコーゲンが枯渇するので, 骨格筋は運動後にインスリン感受性を高めることによって, 血糖を盛んに取り込み, それを用いて筋グリコーゲンを補充しているものと考えられる. ところで, 運動後, 24時間から48時間程度経過した時点では, 筋は次の運動に備えてグリコーゲンを運動前のレベルをはるかに超えるレベルにまで回復させている. これはグリコーゲン超回復と呼ばれる現象である. グリコーゲン超回復が引き起こされた筋ではインスリン感受性はむしろ低下している. もうこれ以上血糖を取り込んでグリコーゲンを補充する必要がないからである. このように, 運動後の筋グリコーゲン再合成にはネガティブフィードバック機構が存在するのである. 我々のグループ(川中健太郎, 佐野明子)はこのネガティブフィードバック機構のメカニズムを検討している. このメカニズムが明らかになれば, 運動後の筋グリコーゲン超回復が達成された後のインスリン感受性低下を抑制するような食事処方, サプルメント開発が可能となる. これらの開発により, 運動後に生じるインスリン感受性亢進効果をより長時間にわたって延長させることが可能となる. つまり, 運動のもつポジティブ効果を増強させることができる. これにより, 軽い運動でも十分な運動効果を得ることが可能になり, 高齢者, 身障者などの糖尿病予防・治療に有効であろう.
ISSN:1346-8774