光計測装置を用いた脳活動計測の教育分野への応用
1. 目的 脳内の活動の様相を教育研究に活かそうとする試みは古くから行われてきた. その代表的なものに, 形式陶冶と実質陶冶論争における「学習効果の転移」の問題がある. 「学習効果の転移」とは, 一般的基本的な内容を学習することで, 応用問題解決時にもその影響が正の状態で反映されるとする理論であり, 脳内の同一部位の活性化がその際のポイントとされた. しかし, 教育研究におけるこうした議論は, 各理論の正当性を補強するために脳科学の成果を転用するといったものが多く, そこでは具体的な計測が期待されているわけではなかった. 近赤外分光法による測定装置(NIRS)の開発により, 「学習」という極め...
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Published in | 日本レーザー医学会誌 Vol. 25; no. 2; p. 126 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本レーザー医学会
15.07.2004
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ISSN | 0288-6200 |
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Summary: | 1. 目的 脳内の活動の様相を教育研究に活かそうとする試みは古くから行われてきた. その代表的なものに, 形式陶冶と実質陶冶論争における「学習効果の転移」の問題がある. 「学習効果の転移」とは, 一般的基本的な内容を学習することで, 応用問題解決時にもその影響が正の状態で反映されるとする理論であり, 脳内の同一部位の活性化がその際のポイントとされた. しかし, 教育研究におけるこうした議論は, 各理論の正当性を補強するために脳科学の成果を転用するといったものが多く, そこでは具体的な計測が期待されているわけではなかった. 近赤外分光法による測定装置(NIRS)の開発により, 「学習」という極めて高次な脳活動機能を, ヘモグロビン濃度(Hb濃度)の相対変化値を測定することによって, 実験分析することが可能となった. このことにより, 教育研究における脳科学成果の扱いは, 理論べ一スから臨床べ一スヘと転換しつつある. 例えば, 幾何課題等においては, 「わかる」瞬間(学習成立)が突然生じる場合も少なくなく, 個人差の問題や, 偶発的要素の要因も重なり, その学習モデルを構築することはこれまで容易ではなかった. NIRSによるデータは, 脳活動を時系列的に計測可能であり, 加えて時間分解能が高い(25msec-1000msec)ために, 学習成立前後のHb濃度の変化の詳細を捉えることが可能である. 従って, 本研究の目的は, 学習成立過程分析のための一指標としてのNIRSの可能性を検証することにある. その可能性が検証されるとするならば, 幾何教育力リキュラム構築に大いなる寄与が期待されるのである. 2. 対象と方法 実験課題は, 幾何内容の基礎的事項の一つである合同図形弁別課題とする. 同様の課題を複数回実施する過程で学習成立の瞬間を具現させ, その前後のHb濃度の変化の詳細を検討する. また, 課題遂行時における教具使用の有無を変数とし, その差異についても検証する. 学習成立地点は, 所要時間の急減時, 及び被験者の事後の内省をもとに同定する. 被験者は, 課題の意図を正確に理解し, 課題終了後の詳細な内省の取得が可能であり, NIRS装着による負荷の影響の少ない大学生とする. 測定部位は, 学習時の右手作業の影響が反映されにくい右前額部最突出部(目視により同定)一箇所とする. 3. 結果考察 教具使用時の5回の合同図形弁別課題遂行時の所要時間とHb濃度を計測した結果が図1である. 所要時間の減少と被験者の内省より, 学習成立地点は試行(3)付近と同定した. その前後のHb濃度変化の詳細を検討すると, 成立前はdeoxyHb>oxyHb, 成立後はdeoxyHb<oxyHbとなった. また, 成立を境にdeoxyHbの増減幅の収束が確認された. 一方, レスト時において, 学習成立前のoxyHbの急増が確認され, 学習成立後には収束へと向かった. deoxyHbの増加と減少, 及び増減幅の収束, レスト時のoxyHb急増と沈静といった現象と, 学習成立との対応関係が示された. 4. 結論 学習成立に伴い, Hb濃度に大幅な変化が生じていることが明らかとなり, 学習成立過程分析の一指標としての可能性が示唆された. |
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ISSN: | 0288-6200 |