遺伝子工学(リコンビナント)製品の安全性

はじめに 1980年代後半に欧米を中心に認められたHIV感染症は, その後拡大の一途をたどり, 現在では人類全体にとって大きな脅威となっている. その感染経路の一つに輸血があり, 未検査の血液製剤(分画製剤も含む)にて多くの感染者がみられた. 中でも我が国では凝固因子製剤を使用していた血友病患者が約1500人感染し, 既に1/3が死亡している. このような背景から, 全世界的に安全な血液製剤が求められている. 1. 遺伝子工学(リコンビナント)製品の開発 血液製剤, その中でも凝固因子製剤は最も早くから遺伝子工学的製剤の開発が求められていたが, 1984年, 米国での第VIII因子のクローニン...

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Published in日本輸血学会雑誌 Vol. 49; no. 4; p. 508
Main Author 高松純樹
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本輸血学会 01.09.2003
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ISSN0546-1448

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Summary:はじめに 1980年代後半に欧米を中心に認められたHIV感染症は, その後拡大の一途をたどり, 現在では人類全体にとって大きな脅威となっている. その感染経路の一つに輸血があり, 未検査の血液製剤(分画製剤も含む)にて多くの感染者がみられた. 中でも我が国では凝固因子製剤を使用していた血友病患者が約1500人感染し, 既に1/3が死亡している. このような背景から, 全世界的に安全な血液製剤が求められている. 1. 遺伝子工学(リコンビナント)製品の開発 血液製剤, その中でも凝固因子製剤は最も早くから遺伝子工学的製剤の開発が求められていたが, 1984年, 米国での第VIII因子のクローニングとともに, リコンビナント第VIII因子製剤が発売になり, 我が国でも約50パーセントの血友病A患者はリコンビナント製剤を使用している. その後第IX因子製剤も発売されたが, 我が国ではまだ発売されていない. 2. リコンビナント製剤の製造法 リコンビナント製剤は目的とするヒト由来遺伝子を, 各種動物由来細胞に導入しその細胞を培養することにより分泌されたタンパクを精製して製造されることより, 原理的にはヒト由来の感染症は含まれない. 一方, 細胞培養に際しては多くの場合培養液中に主にウシ血清を添加して行われている. さらに目的とするタンパクを培養液中より高度に分離精製するために, 多くの場合そのタンパクに対するモノクローナル抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィー法が用いられている. 3. リコンビナント製剤の持つ問題点 以上のような工程により製造されたリコンビナント製剤は, 1. 培養細胞自体が動物由来, あるいは細菌であること, 2. タンパクによっては不安定であるために安定剤としてヒトアルブミンが添加されていること, 3. 細胞における動物由来血清の使用, 精製過程におけるマウスモノクローナル抗体の使用されていること, 4. 血漿由来蛋白との構造上, 機能上の相同性が保証されているか, 5. 凝固因子におけるインヒビターの発生, 6. 安定供給等の問題がある. 4. トータルとしてリコンビナント製剤の安全性とは 3. に述べた問題より安全性とは1. 感染, 2. インヒビター, 3. 安定供給につきるが現在まで感染の報告はない. またインヒビター発生についても血漿由来とほぼ同等と考えられている. 安定供給は当該企業がどのようなリスク管理をしているかにつきるが, 未知的な要素は存在している. 課題としては今後どのような製剤の開発が必要かである. 現時点では安定供給の点を除けばリコンビナント製剤は安全であり, 今後アルブミンのような製剤が安定的に供給されれば輸血医療の大きな変化にもなりうると思われる.
ISSN:0546-1448