リン酸化ペプチドに対するFEL照射効果と赤外分光学的リン酸基判別法

1. 目的 タンパク質の代表的な翻訳後修飾として, リン酸化脱リン酸化が挙げられ, タンパク質の活性不活性をコントロールする重要な反応であると考えられている. タンパク質がリン酸化脱リン酸化反応を受けると, タンパク質を構成するアミノ酸残基の局所的な極性が変化し, タンパク質の高次構造機能活性度に変化が生じることになる. 様々なストレスや疾患でリン酸化の状態が変動することも知られており, リン酸化脱リン酸化をはじめとする修飾反応機構の解明が, 生理的な調節機構の解明や新規創薬, 疾患病態の分析にとって重要であることは疑いない. 本研究において, タンパク質のリン酸化判別をフーリエ変換赤外分光光...

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Published in日本レーザー医学会誌 Vol. 24; no. 3; p. 284
Main Authors 粟津邦男, 石井克典, 鈴木-吉橋幸子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本レーザー医学会 28.09.2003
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Summary:1. 目的 タンパク質の代表的な翻訳後修飾として, リン酸化脱リン酸化が挙げられ, タンパク質の活性不活性をコントロールする重要な反応であると考えられている. タンパク質がリン酸化脱リン酸化反応を受けると, タンパク質を構成するアミノ酸残基の局所的な極性が変化し, タンパク質の高次構造機能活性度に変化が生じることになる. 様々なストレスや疾患でリン酸化の状態が変動することも知られており, リン酸化脱リン酸化をはじめとする修飾反応機構の解明が, 生理的な調節機構の解明や新規創薬, 疾患病態の分析にとって重要であることは疑いない. 本研究において, タンパク質のリン酸化判別をフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いることで判別可能かどうかを, リン酸化ペプチドを使用して検証し, 従来法より簡便にリン酸化の判別が可能かどうかを考察した. また, FELによる脱リン酸化の制御(リン酸化量の制御)を試み, 本研究で観測されたリン酸化ペプチド中のリン酸基に特有な赤外吸収スペクトルピークに対応する平均波長9. 4μmのMIR-FELを照射し, その照射効果を赤外吸収スペクトルの変化から考察した. 2. 方法 試料には非リン酸化ペプチド, リン酸化ペプチド(リン酸化部位:1箇所)(分子量1119~1262)を用いた. 赤外吸収スペクトルの測定には, 顕微FT-IR(Thermo Nicolet, Japan, Nicplan)を用いた. 測定は透過法で行い, 測定範囲は700~4000cm-1, 測定分解能は2cm-1, 赤外透過面積は100μm*100μmの正方形であった. FELの照射波長は, FT-IRで測定されたリン酸基の赤外吸収ピーク波長9. 4μm(O=P-O-伸縮振動)を用いた. 3. 結果 FT-IR測定によるリン酸基由来の赤外吸収ピークは, リン酸化部位がトレオニンの場合1064. 08~1069. 90cm-1(平均1064. 141cm-1), セリンの場合1069. 90~1075. 73cm-1(平均1072. 82cm-1), チロシンの場合1081. 55~1093. 20cm-1(平均1086. 32cm-1)の波数範囲で観測された. FEL照射効果は, 平均パワー密度8. 6W/cm2, 照射時間10秒のとき顕著に観測され, 波数lO64cm-1にピークを持った赤外吸収スペクトルは, FEL照射後, ピーク高の低減したなだらかな赤外吸収スペクトルヘと変化した. (図1(c))
ISSN:0288-6200