老年者脳血管発作の精神医学的問題 精神医学的予後および麻痺側による精神症状の差異について
脳血管発作急性期を死亡することなく経過した老人症例について, 精神医学的見地から, その予後, 実態を検討した 対象は, 60歳以上, 右手利きで, 既往に脳血管発作を確認でき, かつ現在その急性期の意識障害を脱しており, 明らかな片麻痺を有する症例100例である 平均年齢は75.8歳, 右片麻痺40例, 左片麻痺53例, 両片麻痺7例であった 精神医学的見地から, 全く問題の認あられなかった症例 (I群: 単純回復型) は24%のみで, 残り76%はなんらかの精神症状を有しその精神医学的予後は不良であった. すなわち, 痴呆のみを示す症例 (II群: 単純痴呆型) 17例, 痴呆に抑うつ,...
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Published in | 日本老年医学会雑誌 Vol. 12; no. 5; pp. 298 - 305 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
一般社団法人 日本老年医学会
01.09.1975
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Summary: | 脳血管発作急性期を死亡することなく経過した老人症例について, 精神医学的見地から, その予後, 実態を検討した 対象は, 60歳以上, 右手利きで, 既往に脳血管発作を確認でき, かつ現在その急性期の意識障害を脱しており, 明らかな片麻痺を有する症例100例である 平均年齢は75.8歳, 右片麻痺40例, 左片麻痺53例, 両片麻痺7例であった 精神医学的見地から, 全く問題の認あられなかった症例 (I群: 単純回復型) は24%のみで, 残り76%はなんらかの精神症状を有しその精神医学的予後は不良であった. すなわち, 痴呆のみを示す症例 (II群: 単純痴呆型) 17例, 痴呆に抑うつ, 幻覚, 妄想などの狭義の精神症状を伴う症例 (III群: 複雑痴呆型) 21例, 痴呆はなく, 狭義の精神症状のみを示す症例 (IV群: 精神症状型) 31例, 失語, 失認, 失行など巣症状を示すもの (V群: 巣症状型) 16例であった. (ただし. V群中, 6例がII群と, 2例がIII群と, 1例がIV群と重複していた.) 麻痺側との関係では, 痴呆は右片麻痺症例に多く, 狭義の精神症状は, 左片麻痺症例に多かった. 発作後6カ月以内では, 痴呆をみることは稀であり, 6カ月を過ぎると, 急激に痴呆の頻度が高まり, 3カ年以上では, やや滅少する. このことは, 痴呆の発現にとって, 動脈硬化による進行性の動脈径減少による乏血より, むしろ脳血管発作そのものが大きな要因となっているように思われた. 老年者脳血管障害の精神医学的予後は, 不良であり, 将来, 重大な社会的問題を提供すると考えられ, 早急にその実態を把握し, 対策を構ずる必要があると考える. |
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ISSN: | 0300-9173 |
DOI: | 10.3143/geriatrics.12.298 |