歯学教育と研究における歯科基礎医学の役割
本シンポジウム「歯学教育変革期における歯科基礎医学」の目的は, 歯科基礎医学が歯学教育にいかに関わるかという教育上の位置づけを行うことである, とは考えていない. 歯学, 歯科医療変革期を迎えた今日, “歯科基礎医学界を支える歯科基礎医学系講座の存立の意味は何か”を再び問い直すべきである, というのが企画の意図と考えたい. 京都大学高等教育教授システム開発センターの調査によれば, 戦後, 現代を問わず, そして一般教養課程や専門課程を問わず, 授業満足度を大きく規定する要因は3つ確認されている. それは「真剣に授業を受けた」とする学生の授業行動であり, 「教官の熱意が伝わった」とする学生からみ...
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Published in | 歯科基礎医学会雑誌 Vol. 41; no. 5; p. 393 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
歯科基礎医学会
30.08.1999
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Summary: | 本シンポジウム「歯学教育変革期における歯科基礎医学」の目的は, 歯科基礎医学が歯学教育にいかに関わるかという教育上の位置づけを行うことである, とは考えていない. 歯学, 歯科医療変革期を迎えた今日, “歯科基礎医学界を支える歯科基礎医学系講座の存立の意味は何か”を再び問い直すべきである, というのが企画の意図と考えたい. 京都大学高等教育教授システム開発センターの調査によれば, 戦後, 現代を問わず, そして一般教養課程や専門課程を問わず, 授業満足度を大きく規定する要因は3つ確認されている. それは「真剣に授業を受けた」とする学生の授業行動であり, 「教官の熱意が伝わった」とする学生からみた教官要因, 「研究のおもしろさにふれた」とする学生への伝達的影響であった, と報告されている. いずれも当然すぎるものであるかもしれないが, 教官本人がおもしろいと思うレベルの高い研究をやっており, これを熱意を込めて学生に伝える, このことは特に歯科基礎医学系教官にも傾聴すべきことかと思われる. 歴史的にみても, 19世紀後半にヨーロッパ諸国は米国より近代歯学を学ぶが, 20世紀前半には, ドイツは米国の歯学を凌駕するまでに成長した理由の一つに, 基礎医学教育の教授陣の充実があげられている. 当時米国では歯科大学は歯科技工技術に重きを置き, 歯科基礎医学については直接歯科に関係ある部分のみを教えていた. その後ドイツの降盛により米国はドイツの方式を取り入れて再びその勢いを盛り返したという歴史的事実もまた, 歯科基礎医学にとって重要な示唆を含んでいる. 大学の役割は優れた人材と研究成果を国民に提供することであり, 歯科基礎医学の教官は歯学における研究成果を生み出す中核的存在であることを, 歯学, 歯科医療の変革期を迎えて改めて深く認識すべきである. まず第一にすべきは優秀な教官の登用であり, 第二は現在の講座制がもし研究単位としてうまく機能していないのであれば, 講座の再編を行って研究の活性化を図ることにより, 歯科基礎医学自らの存立基盤を強化していくべきであろう. |
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ISSN: | 0385-0137 |