多剤耐性らい菌の分離

いくつかのハンセン病治療薬が開発され, 用いられているが, 一方で薬剤耐性らい菌の菌出現も多数報告されている. 今後, 耐性菌による難治例の増加が予測されることから耐性菌感染例がハンセン病対策上極めて重要と考えられる. 再燃例より得たらい菌の薬剤感受性をマウスにより検査した結果, 多剤耐性が確認されたらい菌の分離と, その遺伝子変異との関連性について報告する. 症例:1963年発症. 1984年再燃し, 再燃後BIは5+以上を示し, 薬剤耐性が疑われた. マウス足蹠法による薬剤感受性試験:バイオプシー材料より接種菌液を作成し, BALB/c-nu/nuマウスに1. 5×106/足蹠接種して初代...

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Published in日本ハンセン病学会雑誌 Vol. 70; no. 2; p. 77
Main Authors 松岡正典, 柏原嘉子, 並里まさ子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本ハンセン病学会 10.07.2001
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Summary:いくつかのハンセン病治療薬が開発され, 用いられているが, 一方で薬剤耐性らい菌の菌出現も多数報告されている. 今後, 耐性菌による難治例の増加が予測されることから耐性菌感染例がハンセン病対策上極めて重要と考えられる. 再燃例より得たらい菌の薬剤感受性をマウスにより検査した結果, 多剤耐性が確認されたらい菌の分離と, その遺伝子変異との関連性について報告する. 症例:1963年発症. 1984年再燃し, 再燃後BIは5+以上を示し, 薬剤耐性が疑われた. マウス足蹠法による薬剤感受性試験:バイオプシー材料より接種菌液を作成し, BALB/c-nu/nuマウスに1. 5×106/足蹠接種して初代分離を行った. 11ケ月後にヌードマウスの足蹠から菌液を作成し, BALB/cマウスに5. 0×103/足蹠接種した. 無処置対照群および以下の薬剤を混入した飼料を与えた群に分けた. DDS0. 01%, DDS0. 001%, DDS0. 0001%, rifampicin0. 01%, sparfloxacin0. 02%, ofloxacin0. 15%, clarithromycin0. 03%, clofazimin0. 001%. 接種後1ヶ月より30週目の菌数検査時まで, 各薬剤を含有する飼料を給餌した. 足蹠内の菌数をShepard法により検査し, 増殖の有無を判定した. DDS0. 01%, rifampicin0. 01%, sparfloxacin0. 02%, ofloxacin0. 15%含有飼料投与群のマウス蹄内で増菌を示し, DDS高度耐性とrifampicin, Quinolone耐性であった. clarithromycinおよびclofazimineに対しては感受性であった. 本実験のsparfloxacin, ofloxacin投与マウスでのらい菌増殖の結果は, 91番アミノ酸置換がQuinolone耐性を惹起することを明確に示した. これまでに報告された1例の国外のQuinolone耐性株も同部位の変異であり, この部位がらい菌のQuinolone耐性の原因となっていることが示された. 報告されたrifampicin耐性らい菌の80%以上はrpoβ遺伝子の532番セリンがロイシンヘの変異であったが, この株でもその変異が耐性の原因であることが示された. この株はDDS0. 01%含有飼料でも増殖阻止が無く高度耐性であった. この菌のfolP遺伝子には, DDS耐性を惹起する53番目のスレオニンのイソロイシンヘの置換が認められており, マウスでの実験はこの変異による耐性獲得の証左となった. macrolide耐性の原因とされる23SrRNAのホットスポットには変異が無かったことから, この菌はmacrolide感受性であると推察されたが, 本実験の結果はそれを支持する結果であった. これまでDDS, rifampicin, Quinolone耐性及びDDS, rifampicin, clofazimine耐性の2例の3剤耐性が報告されている. 難治例においては多剤耐性を疑う必要があり, またWHOによる多剤併用療法についても充分な注意をもって行なうべきものと考える.
ISSN:1342-3681