マウス生後臼歯歯胚の器官培養による歯根形成

臼歯歯根形成, 特にその開始期は臼歯の発生過程の中でも重要な時期であると考えられる. それは歯根形態の確立とセメント質形成など, 歯冠形成では見られなかった新たな形態形成が開始されるからである. これらの形成過程については未解決な課題が多く, 歯や歯周組織の再生や修復に関わる問題解決のためにも, 歯根形成領域の発生過程や組織構築に関するメカニズムの解明は必要不可欠であると考えられる. 齧歯類臼歯歯胚の発達に関するさまざまな事象の解明に器官培養系が果たしてきた役割は大きい. 特に歯冠形成については数多くの優れた研究が報告されているが, これに比較して臼歯歯胚の歯根形成期の器官培養については報告例...

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Published in歯科基礎医学会雑誌 Vol. 43; no. 5; p. 521
Main Author 藤原尚樹
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 歯科基礎医学会 20.08.2001
Japanese Association for Oral Biology
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ISSN0385-0137

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Summary:臼歯歯根形成, 特にその開始期は臼歯の発生過程の中でも重要な時期であると考えられる. それは歯根形態の確立とセメント質形成など, 歯冠形成では見られなかった新たな形態形成が開始されるからである. これらの形成過程については未解決な課題が多く, 歯や歯周組織の再生や修復に関わる問題解決のためにも, 歯根形成領域の発生過程や組織構築に関するメカニズムの解明は必要不可欠であると考えられる. 齧歯類臼歯歯胚の発達に関するさまざまな事象の解明に器官培養系が果たしてきた役割は大きい. 特に歯冠形成については数多くの優れた研究が報告されているが, これに比較して臼歯歯胚の歯根形成期の器官培養については報告例が非常に少ない. 歯根形成は歯冠形成と同様に上皮-間葉相互作用の結果として進展し, さらに歯周組織との関係維持も重要な要素と考えられる. しかし, 従来の器官培養系は摘出した歯胚を用いるのが一般的であったため, 歯根形成に必要な組織間相互作用を十分に確保, 維持できなかった. そのため胎生期歯胚を用いた長期器官培養では満足できる歯根形成が観察できなかった. ヘルトビッヒ上皮鞘(HERS)や歯根膜組織から得た細胞, 組織培養系からの報告は様々あるが, 上皮一間葉の相互関係や立体構築がin vivoと異なっており, 実験者や実験系による条件の不一致からしばしば矛盾した結果を生じてきたのもその一因である. 歯冠の発生機序の解明に器官培養が果たした役割を考えると, 歯根形成においても器官培養による実験系の確立が望まれる. そこで我々は歯根形成過程が十分に観察できる器官培養系の開発を試みた. 我々は1997年にセメント質形成を可能にするための器官培養系を報告した(Fujiwara, 歯科基礎医学雑誌39(2), 143-154). しかしながら本方法は歯根形成開始期の培養には必ずしも適切な方法とは言えなかったので改良を加えてきた. 今回ここに紹介する器官培養系は歯根形成に必須とされる組織要素-歯胚, 歯槽骨, 歯根膜-の全てを含み, 歯胚とその周囲組織の立体構築が維持できる培養系である. 手技的にも歯胚周囲の下顎骨に培養液やガスの浸透を促すための処理を施すだけの比較的簡便な方法であり, 生後直後のマウス歯胚でも培養可能である. また無血清完全合成培地を用いることから外因性因子による影響も明確に検討できる方法である. 本講演ではこの系を用いて歯根形成期と有細胞セメント質形成期について検討した結果について報告する. 生後5日齢の歯根形成開始期のマウス臼歯歯胚にインスリン様成長因子(IGF-I)を4日間添加培養すると, 無添加群に比較しHERSの発達が促進されるが, IGF-IとIGF-I抗体を同時に添加して培養すると無添加群と同様の長さを維持していた. さらにIGF-Iと同様の抗体を添加した培地で2日間培養後, 抗体を含まない培地で4日間培養するとHERSの発達が再び促進された. 本作用は生後5日齢の歯根形成開始期に顕著であり, 同様の実験を行った歯根形成前, 生後3日齢の歯胚では明白な差異が見られないことから, IGF-Iが歯根の形態形成に関与している可能性が示唆された. 一方, これまで下垂体除去マウスでの報告しかなかった有細胞セメント質形成に対する成長ホルモンとIGF-Iの効果についても我々の器官培養系が有効であることが確認された. 有細胞セメント質形成に対しIGF-Iは100ng/mlの濃度で最も促進的に作用し, 成長ホルモンは濃度依存的に促進することが判明した. このことからIGF-Iは成長ホルモンと同様にセメント質形成に対しても促進的な作用を持つことが確認できた. 本講演では, 我々の考案した器官培養を紹介すると共に, 従来の歯根形成における器官培養法の問題点を挙げ, 臼歯歯根形成期に必要な培養条件, 留意点, 器官培養の意義や今後の発展性について展望したい.
ISSN:0385-0137