二次性LQTを惹起する薬物の特徴

QT延長を起こす機序を理解するには, 心電図のQTの成因, そのイオン機序を知った上で, さらにそのQT延長がどうして不整脈を発生させるかを理解する必要がある. 心臓の興奮は近傍の細胞からの電流によってわずかな脱分極が起こるとNaが, 次いでCaが細胞内に流入し活動電位が発生(脱分極), 次いでKが細胞外に流出し細胞内の電位は元の陰性電荷の状態に戻る(再分極). この心室筋の脱分極の開始がQ波で, 再分極の終了がT波と考えられるので, QT時間の延長は脱分極電流の増加, 普通は脱分極性のNa電流またはCa電流が開口後に時間依存性に自然に閉じる, いわゆる不活性化の遅れでも起こるし, K電流の開...

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Published in心電図 Vol. 22; no. 6; p. 692
Main Author 橋本敬太郎
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本心電学会 25.11.2002
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Summary:QT延長を起こす機序を理解するには, 心電図のQTの成因, そのイオン機序を知った上で, さらにそのQT延長がどうして不整脈を発生させるかを理解する必要がある. 心臓の興奮は近傍の細胞からの電流によってわずかな脱分極が起こるとNaが, 次いでCaが細胞内に流入し活動電位が発生(脱分極), 次いでKが細胞外に流出し細胞内の電位は元の陰性電荷の状態に戻る(再分極). この心室筋の脱分極の開始がQ波で, 再分極の終了がT波と考えられるので, QT時間の延長は脱分極電流の増加, 普通は脱分極性のNa電流またはCa電流が開口後に時間依存性に自然に閉じる, いわゆる不活性化の遅れでも起こるし, K電流の開く時間が遅れるか, チャネルの穴を閉じることによって起こる. 先天性のQT延長症候群と同時に, 薬物による二次的なQT延長はNaチャネルの不活性化の遅れか, K電流, 特にIKr電流の抑制により起こり, 実際には今まで報告されているQT延長薬は後者の作用をもつことが多い. QT延長を起こす薬物を実験的に証明するには, 丸ごとの動物からの心電図の記録で捕らえ, そのイオン機序の解明は, 心筋細胞から細胞内電位を記録し, また電位固定法などで解明することができる. 実際にはT波は多数の細胞がバラバラに再分極する時点を示すので, これ自身の電気的変化がQ波に比べて小さく, 形も多様で, QTの測定およびその延長が起こっているかを判定するのが困難な場合がある. QT時間を補うためには, 開胸した心臓では局所電位を記録して, より正確にactivation recovery interval(ARI)を計測したり, 興奮時間を正確に同定するためにmonophasic action potential(MAP)を記録することも行われる. MAPはイヌ等の比較的大きな動物では, カテーテル電極の先端に接触する多数の心筋細胞の活動電位を反映すると考えられるが, 細胞内電位に似た波形が得られて, QT時間を延長する薬物作用を間違いなく記録することができる. さらにQT時間は心拍数が早いと短くなり, 交感神経系の刺激などで心拍数が増えたときに速く弛緩する. この生理的な心拍数に対する反応を薬物等の作用と区別するために, 心拍数の補正が必要になる. これに関してはいろいろな補正式があり, ヒトの場合には心拍数が60から140~150/分まではBasettのRR間隔をルートで開いた式がよく使われるが, 動物実験でも充分補正できるかは問題がある. そのため, ペースメーカなどを用いて心拍数を人為的に制御する実験も必要になる. QTを延長させる薬物がどうして心室頻拍, 特にtorsades de pointes(TdP)などの不整脈を発現するかは, 自動能異常が発生するからだと考えれれている. QTの関連として注目されているのはearly afterdepolarizaion(早期後脱分極, EAD)で, これは再分極の途中から出現する脱分極で, 特に徐脈の時, すなわちQTが延びた条件で起こりやすいとされている. われわれはイヌやラットでQTを延ばす薬物で催不整脈作用を証明する実験を行ってきた. モデル不整脈としては完全にリエントリーで起きるprogram electrical stimulation(PES)による誘発不整脈を, 心筋梗塞犬を用いて発生させている. 心筋梗塞後1~2週間を経たのち心筋梗塞部自身からの電気現象がなくなった状態のイヌに等間隔刺激(S1), 不応期のぎりぎりの時期に2, 3の刺激(S2~4)を与えると持続性心室頻脈(sustaind ventricular tachycardia)などを, 起こすことができる. これは純粋なリエントリー不整脈なのでQT延長させるクラスIII薬物では抑制され, このモデルでは催不整脈作用は示さない. しかし二次的または先天性QT延長状態では交感神経刺激やアドレナリンで不整脈が誘発されることが良く知られている. ハロセン麻酔下にイヌにアドレナリンを投与して発生させるアドレナリン不整脈に対しては, QTを延長させる薬物はNaチャネルまたはチャネルに作用するものを問わず, 誘発させ易くした. QT延長を示す薬物の催不整脈作用の検討にさらに有用なモデルは, 慢性房室ブロック犬を使うもので, 心拍数が30~40/分の状態を1ヵ月位持続させると心不全には至らないが, 心臓が拡大し心筋リモデリングが起こってくる. このイヌにIKrの純粋な阻害剤はTdPを高率に誘発し死亡させた. このモデルは, 実際に致死性の出来事が稀にしか起こらないことを考えると, 臨床での二次的QT延長薬の危険性を検討するのに適当かは問題があるが, 同じQTを延ばすアミオダロン等では死亡させないことから, 非循環系薬の催不整脈作用を検討するモデルとして有用と考えている.
ISSN:0285-1660