スギ花粉症患者におけるBacteroides fragilis groupの菌種レベルでの解析

• Published in: 腸内細菌学雑誌 Vol. 22; no. 2; p. 44
• Main Authors: 小田巻俊孝, 清水金忠, 坂本光央, 近藤しずき, 八重島智子, 岩附慧二, 冨樫秀生, 榎本雅夫, 辨野義己
• Format: Journal Article
• Language: Japanese
• Published: 日本ビフィズス菌センター 01.04.2008
• ISSN: 1343-0882

【目的】我々はこれまでに, 花粉症患者の腸内細菌叢, 中でもBacteroides fragilis(以下B. fragilis)グループが花粉の飛散に伴い変動していることを報告した. また, ここ数年, 本グループに属するいくつかの新種がヒト糞便より分離・提唱されているが, 各菌種の動態・分布については明らかにされていない. 今回, B. fragilisグループに属する菌種レベルでの解析を実施し, 花粉症との関連について検証を行った. 【方法】スギ花粉シーズンに, スギ花粉症患者44名を対象にBifidibacterium lingum BB536またはプラセボ粉末を用いた無作為割り付け二重盲検並行2群比較試験を実施した. 同時期に非花粉症健常者14名はプラセボ粉末を摂取し, 毎日の自覚症状調査, 月毎の採血・採便を行った. ヒト糞便から分離されるB. fragilisグループに属する14菌種(B. caccae, B. coprocola, B. coprophilus, B. dorei, B. eggerthii, B. finegoldii, B. fragilis, B. intestinalis, B. ovatus, B. plebeius, B. stercoris, B. thetaiotaomicron, B. uniformis, B. vulgatus)に対して特異的なプライマーセットを作成し, 特異性を確認後, 定量PCRにて菌数を測定した. 【結果】B. fragilisグループに属する菌種はすべての被験者から少なくとも1種類以上, 9割以上の被験者からは3～7種類, 糞便1gあたり10 6 cells以上検出された. 14菌種の合計平均は花粉飛散前が10 9.72±0.76 cells, 花粉飛散後が10 10.43±0.81 cellsであった. 花粉飛散前, 高頻度に検出されたのはB. doreiとB. uniformisで, B. caccae, B. fragilis, B. ovatus, B. thetaiotaomicron, B. vulatusがおよそ半数の被験者から検出された. その他菌種の検出率は30%以下であった. β. coprophilusとB. sterocorisは花粉症患者のみから検出された. 次に花粉の飛散に伴う変動について解析したところ, プラセボ群では10菌種, BB536群では6菌種, 健常者群では2菌種の有意な増加が認められた. 中でもB. fragilisとB. intestinalisはプラセボ群のみで増加し, さらに試験前後における菌数が花粉飛散期間中の花粉症の自覚症状合計スコア及び花粉シーズン末期における血中スギ花粉特異的IgEレベルと有意な正の相関を示した. B. doreiは花粉飛散後のみこれらと正相関が認められた. また, 花粉飛散後のBB536群におけるB. fragilis菌数は, プラセボ群と比較し, 有意に低い値を示した. 【考察】花粉飛散前後の一部のB. fragilisグループ菌種において, 花粉症症状及び血中マーカーと正相関が見られたことから, これらの菌種と花粉症発症との関連が示唆された. BB536摂取によるB. fragilisの増加抑制は, 花粉症改善効果の作用機序の一端を担っていると推測された.