老年者の脳海馬領域の退行変化 その, 年齢, 性, 痴呆との関係

病理組織学でいう, いわゆる老人性変化が老年痴呆患者のみならず一般高齢者にも認め得ることは古くから知られている. しかし一般老年者におけるそれらの頻度および量と, 年齢, 性, および生存中の精神機能との関係を系統的に調べた研究は多くはない. 著者は東大老人科および財団法人榛名荘病院で得られた50歳以上の連続剖検例146例を対象として, チオフラビンT螢光染色法により脳海馬領域における Alzheimer 神経原線維変化, 老人斑, ならびに amyloid angiopathy の出現数を数えた. そしてそれらと年齢, 性, 痴呆との関係について検討した. その結果, (1) 神経原線維変化...

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Published in日本老年医学会雑誌 Vol. 12; no. 1; pp. 30 - 40
Main Author 森松, 光紀
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本老年医学会 01.01.1975
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ISSN0300-9173
DOI10.3143/geriatrics.12.30

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Summary:病理組織学でいう, いわゆる老人性変化が老年痴呆患者のみならず一般高齢者にも認め得ることは古くから知られている. しかし一般老年者におけるそれらの頻度および量と, 年齢, 性, および生存中の精神機能との関係を系統的に調べた研究は多くはない. 著者は東大老人科および財団法人榛名荘病院で得られた50歳以上の連続剖検例146例を対象として, チオフラビンT螢光染色法により脳海馬領域における Alzheimer 神経原線維変化, 老人斑, ならびに amyloid angiopathy の出現数を数えた. そしてそれらと年齢, 性, 痴呆との関係について検討した. その結果, (1) 神経原線維変化, 老人斑, amyloid angiopathy の出現頻度はほぼ加齢とともに増す. 同一年代における出現頻度は常に, 神経原線維変化>老人斑>amloid angiopathy で, 一般に女性における出現頻度は男性より高い. これらの変化の出現量も加齢に伴って増す傾向があり, とくに神経原線維変化, ついで老人斑で顕著であった. (2) 各症例における3種の退行変化の出現量の間には大まかな相関がある. 各2種の変化の量的な相関度は, 神経原線維変化と老人斑の間でもっとも高く, 以下老人斑と amyloid angiopathy, 神経原線維変化と amyloid angiopathy の順であった. (3) 年齢および性の構成を等しくした非痴呆群と痴呆群 (各33例) について3種の変化の出現量を比較すると, 神経原線維変化および老人斑の量は痴呆群の方が有意に多かった. さらに痴呆群について高度痴呆例と軽度痴呆例 (各25例) を比較すると, 神経原線維変化と老人斑の量には有意差がなく, amyloid angiopathy のみ高度痴呆例の方が量的に多かった. すなわち老年者の痴呆化に対しては, 神経原線維変化や老人斑で代表される退行変化の過程が重要な役割をもつと考えられる. しかし痴呆の程度決定には, これら以外の他の因子も関与していると考えるべきである.
ISSN:0300-9173
DOI:10.3143/geriatrics.12.30