日本薬局方に見られた向精神・神経薬の変遷 (その30) 2000年以降の海外の学術文献に見られたPassiflora edulisの5亜種のうち2亜種の葉の抽出物における植物化学的成分組成の比較と向精神・神経効果に及ぼす影響について

「要旨」目的: 鎌倉浩之ら(2010)の論文には, P. edulisの亜種として, 紫色の果実のP. edulis fo. edulisと黄色の果実のP. edulis fo. flavicarpaが存在することが記載された. 両亜種の含有フラボノイドについて, 両亜種は異なった成分化学プロファイルを示したことが報告された. そこで今回は海外のPassiflora sp. の学術文献の中からP. edulisに関する文献を抽出した. 次に両亜種のフラボノイドなどの成分組成の学術情報を収集し, 両亜種における成分組成の比較検討を行った. また両亜種の神経薬理学的, 生物学的活性効果の学術情報も...

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Published in薬史学雑誌 Vol. 59; no. 1; pp. 78 - 89
Main Author 柳沢清久
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本薬史学会 30.06.2024
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ISSN0285-2314

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Summary:「要旨」目的: 鎌倉浩之ら(2010)の論文には, P. edulisの亜種として, 紫色の果実のP. edulis fo. edulisと黄色の果実のP. edulis fo. flavicarpaが存在することが記載された. 両亜種の含有フラボノイドについて, 両亜種は異なった成分化学プロファイルを示したことが報告された. そこで今回は海外のPassiflora sp. の学術文献の中からP. edulisに関する文献を抽出した. 次に両亜種のフラボノイドなどの成分組成の学術情報を収集し, 両亜種における成分組成の比較検討を行った. また両亜種の神経薬理学的, 生物学的活性効果の学術情報も収集し, 両亜種におけるその活性効果の比較検討を行った. そして両亜種のフラボノイドなどの成分組成の相違がその活性効果に及ぼす影響について考察した. 方法: P. edulisの2つの亜種に関する報文として, Ayres et al. (2015), He et al. (2020), およびRai et al. (2022)の3つの文献を抽出した. そしてこれらの3つの報文に引用された文献の中から3), 4)および14)~25)の文献を抽出した. そこからP. edulisの2つの亜種について, フラボノイド, テルペノイドなどの成分組成, および薬理学的, 生物学的活性効果の学術情報を収集し, 情報収集結果を基に, それらについて比較検討を行った. 結果: P. edulisの両亜種の葉の抽出物について, HPLCなどの植物化学分析結果として, 両亜種のクロマトグラフィーにおいて, お互いに全く異なったフラボノイドの成分化学プロファイルが示された. また含有フラボノイドの定量分析として, イソオリエンチン, イソビテキシンについては, P. edulis fo. flavicarpaの葉の抽出物はP. edulis fo. edulisよりも含有濃度が高かったことが示された. 一方, P. edulisの両亜種の抽出物には, 共通して抗不安効果, 抗うつ効果, 鎮静効果などの向精神・神経効果が見られた. しかし抗不安効果については, P. edulis fo. flavicarpaの方が強力であり, 抗うつ効果については, P. edulis fo. edulisの方が強力であることが, 知見として得られた. P. edulisの両亜種の抽出物に見られた向精神・神経効果の共通性については, 両亜種の抽出物であるフラボノイドなどの成分組成の相違と相反する結果となった. 結論: P. edulisの両亜種は向精神・神経効果を共有していることが近年の神経薬理学的研究から明らかになった. このことは, P. edulisの葉の抽出物がブラジルにおいて, 多くの精神・神経疾患の治療に植物療法(伝統的民間療法)として, 歴史的に長く使われてきた科学的実証と考えられる. しかしこのことは, 両亜種の抽出物であるフラボノイドなどの植物化学的成分組成の相違と矛盾している. そこでP. edulisの両亜種の含有成分のC-グリコシルフラボンなどのフラボノイド, テルペノイド, その他の二次代謝生成物を包括的に捉えてみた. そのことによって, 両亜種の向精神・神経効果などの生物学的効果の類似性について, 植物化学的に追究できると考える.
ISSN:0285-2314