日本薬局方に見られた向精神・神経薬の変遷 (その31) Passiflora alata Curtisの葉の抽出物からのサポニンの単離, 同定の歴史的プロセスとその抗不安効果に及ぼす影響について

「要旨」「目的」 : P. edulisはフラボノイドC-配糖体 (以下C-グリコシルフラボン) などの二次代謝産物フラボノイドが豊富である. このためその抗不安効果の原因化合物はフラボノイドが妥当と考えられている. しかしP. alataの総フラボノイド含有量がP. edulisの半分にもかかわらず, 両種は同様の抗不安効果を示した. このことに関しては, P. alataの抗不安効果には, フラボノイド以外に, 別の生物活性物質 (二次代謝産物) の関与が考えられる. そこで今回はP. alataの抽出物の植物化学的成分の分析の歴史的プロセスにおいて, P. alataから, フラボノイド...

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Published in薬史学雑誌 Vol. 59; no. 2; pp. 168 - 179
Main Author 柳沢清久
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本薬史学会 31.12.2024
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ISSN0285-2314

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Summary:「要旨」「目的」 : P. edulisはフラボノイドC-配糖体 (以下C-グリコシルフラボン) などの二次代謝産物フラボノイドが豊富である. このためその抗不安効果の原因化合物はフラボノイドが妥当と考えられている. しかしP. alataの総フラボノイド含有量がP. edulisの半分にもかかわらず, 両種は同様の抗不安効果を示した. このことに関しては, P. alataの抗不安効果には, フラボノイド以外に, 別の生物活性物質 (二次代謝産物) の関与が考えられる. そこで今回はP. alataの抽出物の植物化学的成分の分析の歴史的プロセスにおいて, P. alataから, フラボノイド以外に, 生物活性物質として, 単離, 同定 (分析) されたステロイドおよびトリテルペノイドO-配糖体 (サポニン) の植物化学分析, および薬理学的, 生物学的活性効果について, 文献調査を行った. そしてステロイドおよびトリテルペノイドO-配糖体 (サポニン) の精神・神経効果への関与について考察した. 「方法」 : 第29報の引用文献 Noriega, et al. 「Passiflora alata Curtis : a Brazilian medicinal plant (ブラジルの薬用植物)」 (2011) に使われた研究報文 (文献) から, 本報の資料を抽出した. これらの資料から, P. alataから単離同定された生物活性物質として, C-グリコシルフラボン, ステロイドおよびトリテルペノイドO-配糖体 (サポニン) をメインとして, その植物化学および薬理学的活性について, 研究調査を行った. さらにP. alataの成分のテルペノイドサポニンに関する近年の研究報文資料を, Web検索にて抽出した. 「結果」 : Reginatto, et al. (2001) はP. alataの葉のエタノール抽出物のn-ブタノール画分 (粗サポニン画分) をSilica gelカラム用いたクロマトグラフィーによって, 5つの化合物 (配糖体) に分離し, MSおよび1H-NMRの併用によって, それらの化合物の化学構造を同定した. Birk, et al. (2005) によると, 14種のPassiflora sp. のTLCフィンガープリントに示されたサポニンパターンとして, 可視光下およびUV366光下で, P. alataの抽出物と参照物質の3-O-β-D-glucopyranosyl-(1→2)-β-D-glucopyranosyl-Oleanolic acidおよびquadrangulosideのみが特色のスポットを示した. すなわち14種のPassiflora sp. の抽出物の中で, P. alataの抽出物は主な代謝産物として, サポニンを示したが, 他の13種の代謝産物はフラボノイドであることを示唆した. Dutra, et al. (2023) は1H-NMR関連シグナル (代謝プロファイル) から, サポニンのquadranguloside ,3-O-β-D-glucopyranosyl-(1→2)-β-D-glucopyranosyl-oleanolic acid, およびビテキシン-2-Oラムノシドを同定した. そしてこれらの成分について, Passiflora sp. から, P. alataの識別に関与する代謝産物として特定した. Xu, et al. (2023) によると, テルペノイド生合成経路の4つの遺伝子 (HMGR, DXR, HDS, SM) がすべてP. alataで高度に発現された. 「結論」 : Passiflora sp. の抗不安効果, 鎮静効果, 抗うつ効果などの精神・神経効果の原因生物活性物質としては, C-グリコシルフラボンが考えられていた. P. alataについては, P. edulisに比べて, フラボノイド組成が単純であり, その含有量が少ないことから, その原因物質として, 他の生物活性物質の存在が考えられる. Reginatto, et al. (2001) がP. alataの葉のエタノール抽出物から同定した5つのステロイドおよびトリテルペノイドO-配糖体 (サポニン) の中で, Reginatto, et al. (2004) によるquadrangulosideの定量結果, およびDutra, et al. (2023) の1H-NMR代謝プロファイリングによるP. alataの葉のエタノール抽出物からの3つの代謝産物の同定結果から, 抗不安効果の原因物質としては, quadrangulosideが有力と考えられる. しかしこの化合物のCNS抑制効果 (抗不安効果) に関する詳細な学術情報については, 今回の文献検索から得られていない.
ISSN:0285-2314