発達障害と自殺

自殺関連行動が問題となる発達障害としては, 自閉スペクトラム症 (Autism Spectrum Disorder, 以下ASD) と注意欠如・多動症 (Attention-Deficit/Hyperactivity disorder, 以下ADHD) が考えられる. 1980年代以降蓄積されてきたADHDの自殺研究とは対照的に, ASD症例はこれまでほとんど自殺研究の対象とされてこなかった. 近年, ASDの自殺症例の報告や自殺関連行動の症例対照研究が散見されるようになり, 少しずつASDの自殺関連行動の臨床的特徴が明らかになってきた. 自験例を中心に思春期ASDの自殺企図の臨床的特徴をまと...

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Published in児童青年精神医学とその近接領域 Vol. 56; no. 2; pp. 168 - 178
Main Author 三上克央
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本児童青年精神医学会 01.04.2015
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ISSN0289-0968

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Summary:自殺関連行動が問題となる発達障害としては, 自閉スペクトラム症 (Autism Spectrum Disorder, 以下ASD) と注意欠如・多動症 (Attention-Deficit/Hyperactivity disorder, 以下ADHD) が考えられる. 1980年代以降蓄積されてきたADHDの自殺研究とは対照的に, ASD症例はこれまでほとんど自殺研究の対象とされてこなかった. 近年, ASDの自殺症例の報告や自殺関連行動の症例対照研究が散見されるようになり, 少しずつASDの自殺関連行動の臨床的特徴が明らかになってきた. 自験例を中心に思春期ASDの自殺企図の臨床的特徴をまとめると, 頻度は思春期自殺企図症例のおよそ12%に認め, 性別は男性の割合が高かった. 精神医学的診断では適応障害を併存する頻度が高く, うつ病だけでなく適応障害も危険因子となる可能性が示唆された. そして, ASD症例はより致死的な手段で企図する傾向を認め, 初回企図で既遂に至る可能性が高いことが示唆された. さらに, 対人関係構築の繰り返しの失敗による自尊心の低下を認めるにもかかわらず, 家族内葛藤故に相談できない状況が存続し, そのために形成された社会的孤立感が心理社会的準備因子の1つと考えられた. 思春期ASDの自殺企図症例の対応に際しては, 上記臨床的特徴を踏まえた対応が臨床家には求められ, 再企図防止のためには自殺準備因子, 特に心理社会的準備因子の認識と介入が重要である. 本稿では, 思春期ASDの自殺企図症例の臨床的特徴を踏まえ, 自殺準備因子の認識と介入による思春期ASD症例に対する自殺再企図防止のアプローチを提案した.
ISSN:0289-0968