ES細胞からの破骨細胞分化
【はじめに】破骨細胞は血液幹細胞由来の細胞で, 単球, マクロファージと同じ細胞系譜の細胞とされている. しかし, c-Kit受容体などシグナルの要求性などからみると, 未だ不明の点が多い. 今回, 破骨細胞の全分化過程を検討するために, 全能性を保持するES細胞を用いて解析を行った. さらに, 1個のES細胞からコロニーを形成させて, 破骨細胞の分化の位置と時間についても検討した. 【結果】1)ES細胞からの破骨細胞分化誘導:未分化ES細胞株D3をストロマ細胞株ST2上で活性型ビタミンD3とデキサメサゾンの存在下で培養した. この培養系では培地交換以外の操作は行わないので, ES細胞が増殖,...
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Published in | 歯科基礎医学会雑誌 Vol. 43; no. 5; p. 518 |
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Main Authors | , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
歯科基礎医学会
20.08.2001
Japanese Association for Oral Biology |
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ISSN | 0385-0137 |
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Summary: | 【はじめに】破骨細胞は血液幹細胞由来の細胞で, 単球, マクロファージと同じ細胞系譜の細胞とされている. しかし, c-Kit受容体などシグナルの要求性などからみると, 未だ不明の点が多い. 今回, 破骨細胞の全分化過程を検討するために, 全能性を保持するES細胞を用いて解析を行った. さらに, 1個のES細胞からコロニーを形成させて, 破骨細胞の分化の位置と時間についても検討した. 【結果】1)ES細胞からの破骨細胞分化誘導:未分化ES細胞株D3をストロマ細胞株ST2上で活性型ビタミンD3とデキサメサゾンの存在下で培養した. この培養系では培地交換以外の操作は行わないので, ES細胞が増殖, 分化しコロニーを形成する. 培養開始後, 経時的に, c-Kit(steel因子受容体), c-Fms(M-CSF受容体), 酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ(TRAP)陽性細胞の出現を検討したところ, 培養4日目にc-Kit, 6日目にc-Fms, 8日目にTRAP陽性細胞が検出された. 培養11目にはTRAP陽性多核細胞は, コロニーの最外側に円状に存在した. 起源を同じくする血管内皮細胞についても検討したところ, CD31, Flk1陽性細胞は4日目出現し, 中心部よりコロニーの成長に従って, 車軸状に外側部へ進展していた. 2)破骨細胞の位置の検討:ST2ストロマ細胞から破骨細胞分化に必要なM-CSFとRANKLがともに産生されているが, さらに, リコンビナント可溶性M-CSFとRANKLを培養に加えると, 外縁部にみられた破骨細胞はコロニーの内側に集簇し, その後, 添加を中止すると, また外縁にのみ観察された. 一方, 出現する時期には変化はみられなかった. 血管内皮細胞はこの添加によって位置を変えることはなかった. 3)致死遺伝子破壊ES細胞株の検討:この培養法を用いて, 血液細胞系譜異常で致死個体となる転写因子変異体のES細胞株について検討した. 赤血球系を中心に異常を示すGata1(-/-), Fog(-/-)ES細胞では全く正常に破骨細胞が出現した. Scl/Tall(-/-)ES細胞からは他の血液細胞系譜と同様全く破骨細胞も出現しなかったが, 血管内皮細胞は正常と同じ位置に発生した. Gata2(-/-)ES細胞はコロニー形成は同様に起こるが, 破骨細胞を含むコロニーは1/5に減少していた. しかし, 破骨細胞を含むコロニー内の破骨細胞の数, 出現の時期には変化はなかった. 【考察】この培養系を用いて1)致死個体となる変異をもたらす遺伝子の機能について検討できた. 2)コロニーを形成させることで破骨細胞と他の細胞系譜との位置的関係を検討できた. 破骨細胞と血管内皮細胞は自立的に存在する位置を決めていること, 破骨細胞はM-CSFとRANKLによって位置を変えることができることが明らかになった. 時間的には培養開始4日目に血液細胞系譜が, 8日目に破骨細胞が確認できた. 未分化ES細胞を3.5日胚相当とすると7.5日胚に血液細胞が最初に卵黄嚢で検出されること, 血液幹細胞から破骨細胞分化に4日かかることなど, 時間的一致が見られた. しかしながら, その変更を誘導することは今のところできていない. ST2ストロマ細胞は骨芽細胞であり, そこへ向かって, 破骨細胞と血管内皮細胞がそれぞれの性格を保持して分化していく像は, 組織構築を試験管内に持ち込めたのではと期待している. しかしながら, 骨芽細胞であるST2が培養のはじめから存在することは問題である. 組織構築機構を明らかにするためには, 骨芽細胞もES細胞から誘導することが必要と考えられる. 謝辞:遺伝子破壊ES細胞株はStuart Orkin博士より供与された. |
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ISSN: | 0385-0137 |