重要文化的景観・姨捨の棚田における耕作放棄地発生と復田の均衡関係 耕地条件・耕作主体の観点から

2019(令和元)年の棚田地域振興法施行に伴い全国各地で各種取組みが活発化しているが、耕作持続方策は必ずしも明確な決め手はなく、耕作放棄に歯止めがかかっていない。各種顕彰を受ける地域でさえ放棄・遊休地がみられ、厳しい状況にある。耕作放棄の根本的な発生構造の解明と、それを踏まえた科学的根拠に基づく対応策の提示が急がれる。 本論文では、棚田保全団体など多様な耕作主体が存在する状況下での耕作放棄の発生メカニズムを解明することを試みた。そこで農家のみならず複数の非農家を含む棚田保全団体によって耕作、復田の動きがみられる長野県千曲市・姨捨棚田地区を対象に、同地区の重要文化的景観選定前の2006(平成18...

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Published in棚田学会誌 Vol. 25; pp. 12 - 23
Main Authors 内川, 義行, 冨田, 樹, 堀田, 恭子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 棚田学会 24.08.2024
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Summary:2019(令和元)年の棚田地域振興法施行に伴い全国各地で各種取組みが活発化しているが、耕作持続方策は必ずしも明確な決め手はなく、耕作放棄に歯止めがかかっていない。各種顕彰を受ける地域でさえ放棄・遊休地がみられ、厳しい状況にある。耕作放棄の根本的な発生構造の解明と、それを踏まえた科学的根拠に基づく対応策の提示が急がれる。 本論文では、棚田保全団体など多様な耕作主体が存在する状況下での耕作放棄の発生メカニズムを解明することを試みた。そこで農家のみならず複数の非農家を含む棚田保全団体によって耕作、復田の動きがみられる長野県千曲市・姨捨棚田地区を対象に、同地区の重要文化的景観選定前の2006(平成18)年と、選定後の2022(令和4)年時点における土地利用状況について比較・検討した。これを踏まえて耕地条件と耕作者の観点からその関係性を明らかにし、今後の棚田保全の課題を考察した。 その結果、姨捨棚田地区における2006(平成18)年と2022(令和4)年の土地利用には一見大きな変化はないように見られた。しかし一筆ごとの変化の履歴を詳しく追ってみるとその状況は必ずしも単純ではなく、主に地元農家の区画で放棄地・遊休地化が進んでいた一方、保全団体による復田等により、面積的には相殺される形で、全体的には一見土地利用の変化が無いようにみえる「均衡関係」があることが明らかになった。また、耕作放棄地の発生は農作業機械の搬入困難な区画、すなわち道路との接続のない場所で多く生じており、復田等された区画も、その後の耕作継続の観点からこの条件が重要であることが示された。また、現在はこの均衡関係により維持される仕組みが、今後崩れる可能性が確認された。耕作放棄地の9割以上の発生源である地元農家の高齢化はすでに約85%に達しており、複数の棚田保全団体も高齢化や人手不足等、構成員の減少の課題を共通して抱えていた。加えて作業機械の交換や近年の燃料代・肥料等資材費の高騰の中、活動資金の獲得にも苦慮している現状が明らかになった。以上より、耕作の担い手を急ぎ確保することはもちろんのこと、それが地元農家、保全団体とどちらであれ、耕作負荷を少しでも減らすため農作業機械の進入条件等の改善を併せて実施することが急務であると考えられた。
ISSN:2436-1674
2758-4364
DOI:10.57493/tanada.25.0_12