ボタン型アルカリ電池の鼻腔異物例

ボタン型アルカリ電池の鼻腔異物により,鼻粘膜壊死・鼻中隔穿孔をきたした例を経験した。症例は4歳男児。3日前からの発熱・右頬部腫脹を主訴に近医耳鼻咽喉科を受診し,右鼻腔内にボタン電池を指摘・摘出され,同日当科を受診した。右鼻腔は側壁と鼻中隔の粘膜が黒褐色に変色し,壊死に陥っていた。入院14日目に全身麻酔下に観察と壊死組織除去術を施行したところ,長径2.0 cmの鼻中隔穿孔および鼻腔側壁の骨露出を認めた。癒着予防のため鼻中隔に沿わせてシリコンシートを挿入し,術後1ヶ月半で再度全身麻酔下に抜去すると,1.5 cmの鼻中隔穿孔が残存していたが鼻内はほぼ上皮化し,癒着は生じていなかった。初診時より1年経...

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Published in日本鼻科学会会誌 Vol. 64; no. 2; pp. 258 - 264
Main Authors 伊賀上, 真有, 有友, 宏, 篠森, 裕介
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本鼻科学会 2025
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Summary:ボタン型アルカリ電池の鼻腔異物により,鼻粘膜壊死・鼻中隔穿孔をきたした例を経験した。症例は4歳男児。3日前からの発熱・右頬部腫脹を主訴に近医耳鼻咽喉科を受診し,右鼻腔内にボタン電池を指摘・摘出され,同日当科を受診した。右鼻腔は側壁と鼻中隔の粘膜が黒褐色に変色し,壊死に陥っていた。入院14日目に全身麻酔下に観察と壊死組織除去術を施行したところ,長径2.0 cmの鼻中隔穿孔および鼻腔側壁の骨露出を認めた。癒着予防のため鼻中隔に沿わせてシリコンシートを挿入し,術後1ヶ月半で再度全身麻酔下に抜去すると,1.5 cmの鼻中隔穿孔が残存していたが鼻内はほぼ上皮化し,癒着は生じていなかった。初診時より1年経過した現在まで,鼻中隔穿孔の他に合併症なく経過している。ボタン電池より漏出した,あるいは粘膜上での化学反応により生成されたアルカリは粘膜壊死を起こし,鼻中隔穿孔,鞍鼻,癒着や前鼻孔閉鎖等の後遺症をきたす可能性がある。壊死進行抑制のためには電池の早期摘出以外にまだ定説はないが,自験例では抗生剤投与,壊死組織除去,シリコンシート留置が後遺症を軽減させた可能性がある。若干の文献的考察を加えて報告する。
ISSN:0910-9153
1883-7077
DOI:10.7248/jjrhi.64.258