文学テクストの翻訳に関わる問題の一端を探る ーWuthering Heights の書き出しからの一節をめぐってー

文学テクストの翻訳では、特に解釈が重要な鍵を握る。この解釈の過程で、翻訳する者はひとつひとつの語や句の意味を理解するために、テクスト全体の意味に照らして検討するだけではなく、全体の意味を構築するために、語や句に戻り、検討するという作業をくり返している。しかも、その結果としてたどり着いた解釈が妥当かどうかの断定ができない場合がある。このような文学テクストに関する解釈学的な立場から、本稿では英国の小説家エミリー・ブロンテの『嵐が丘』の書き出しの一節を取り上げ、文学テクストの翻訳に関わる問題の一端を探ることにした。まずはこれまでその一節がどのように翻訳されているのか、いくつかの翻訳を概観した。さらに...

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Bibliographic Details
Published inメディア・英語・コミュニケーション Vol. 12; no. 1; pp. 53 - 64
Main Author 杉村, 寛子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本メディア英語学会 30.09.2022
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ISSN2186-1420
2436-8016
DOI10.11293/james.12.1_53

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Summary:文学テクストの翻訳では、特に解釈が重要な鍵を握る。この解釈の過程で、翻訳する者はひとつひとつの語や句の意味を理解するために、テクスト全体の意味に照らして検討するだけではなく、全体の意味を構築するために、語や句に戻り、検討するという作業をくり返している。しかも、その結果としてたどり着いた解釈が妥当かどうかの断定ができない場合がある。このような文学テクストに関する解釈学的な立場から、本稿では英国の小説家エミリー・ブロンテの『嵐が丘』の書き出しの一節を取り上げ、文学テクストの翻訳に関わる問題の一端を探ることにした。まずはこれまでその一節がどのように翻訳されているのか、いくつかの翻訳を概観した。さらにそのくだりの中の'grotesque'という語に焦点を当て、Oxford English Dictionary や芸術様式としての'grotesque'を詳述する文献に基づき、その意味するところを確認した。しかし、この語の意味内容は『嵐が丘』の冒頭に示される二つの時代においてそれぞれ微妙に異なり、しかもコンテクストからはどちらか一方に決定することができない状況に翻訳する者を陥れるものであった。このように文学テクストの翻訳では、訳註などの工夫を凝らしたとしても解決することが難しい問題に直面することがあり、そこに非文学テクストの翻訳とは異なる側面が見られるのではないかと結んだ。
ISSN:2186-1420
2436-8016
DOI:10.11293/james.12.1_53