日本薬局方に見られた向精神・神経薬の変遷(その 32)Passiflora quadrangularis の抗不安作用,鎮静作用などの精神・神経作用についての文献調査による知見,およびGABAA受容体の関与についての考察
目的:橋本梧郎著『ブラジル産薬用植物事典』(1996)には,Passiflora quadrangularis(以下 P. quadrangularis)は一般に鎮静作用があり,その葉の成分として,シクロアルタン型トリテルペノイドサポニンのquadrangulosideが記載された.著者はこの化合物と P. quadrangularis の鎮静作用は深い関係にあるものと推察した.今回は P.quadrangularis の植物化学成分,薬理学的・生物学的活性効果に関する文献を収集し,文献調査から得られた知見から,『ブラジル産薬用植物事典』に示された P. quadrangularis の抗不安...
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Published in | 薬史学雑誌 Vol. 60; no. 1; pp. 48 - 59 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本薬史学会
30.06.2025
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Subjects | |
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ISSN | 0285-2314 2435-7529 |
DOI | 10.34531/jjhp.60.1_48 |
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Summary: | 目的:橋本梧郎著『ブラジル産薬用植物事典』(1996)には,Passiflora quadrangularis(以下 P. quadrangularis)は一般に鎮静作用があり,その葉の成分として,シクロアルタン型トリテルペノイドサポニンのquadrangulosideが記載された.著者はこの化合物と P. quadrangularis の鎮静作用は深い関係にあるものと推察した.今回は P.quadrangularis の植物化学成分,薬理学的・生物学的活性効果に関する文献を収集し,文献調査から得られた知見から,『ブラジル産薬用植物事典』に示された P. quadrangularis の抗不安作用,鎮静作用などの精神・神経作用に関して,植物化学成分,脳神経化学を通して考察した.今後の向精神・神経薬の製剤設計において,P.quadrangularis が Passiflora 製剤およびその配合剤として,ふさわしいものか検討した.方法:P. quadrangularis に関する報文を Web にて検索した.その中から P. quadrangularis の植物化学成分,薬理学的・生物学的活性効果に関する研究報文を抽出した.結果:近年の文献調査結果,P. quadrangularis の葉もしくは果皮の水性および水性アルコール抽出物から単離,同定された成分に関しては C-グリコシルフラボノイドが主であった.その中で,主要 C-グリコシルフラボノイドは vitexin-2-O-xyloside であることが,どの報文にも記載された.Gazola, et al. (2018)は当初,P.quadrangularis の果皮の水性抽出物の鎮静効果の原因物質として,C-グリコシルフラボノイドのアグリコンである apigenin を考えた.そして apigenin の鎮静効果を媒介する GABAA 受容体の潜在的な関与を実証した.しかし apigenin の含有推定量を単独投与した場合,鎮静効果を示さなかったサンプルもあった.このためその原因化合物として,他の化合物の寄与も考えられた.さらに apigenin の鎮静効果がマウスの経口投与後に観察された.このため apigenin だけではなく,生体内代謝後に生成した他の代謝産物も生体内で,GABAA 受容体を調節する可能性があると推測した.最近,Gopika, et al. (2024)は LCMS を使用した分析結果,P.quadrangularis の水性アルコール抽出物について,quercetin 3,7-O-dirhamnoside,?kaempferol 3-O-rhamnoside7-O-xyloside の存在を確認した.一方,今回の文献調査からは,シクロアルタン型トリテルペノイドサポニンの quadranguloside については,抗不安作用,鎮静作用,抗うつ作用などの精神薬理学的効果を実証した研究報文は取得できなかった.結論:P. quadrangularis は含有成分の C-グリコシルフラボノイドのアグリコン(apigenin,?ruteorin など)およびそれらの代謝産物が共同体として,それぞれの GABAA 受容体結合部位に分かれて作用するものと考えられる.P. quadrangularis の抗不安作用,鎮静作用,軽い精神安定作用はその包括的結果によって,発揮するものと考えられる.今回の文献調査を通して,かつてのワレリアナ,パッシフローラ,ホップ,ポテンティラなどを配合した植物鎮静剤の「ネルベンルーホルテ」については,配合生薬のワレリアナ,パッシフローラ,ホップに含まれる成分が GABAA 受容体陽性アロステリック調節因子として,共同作用によって,抗不安作用,鎮静作用,軽い精神安定作用を発揮するものと考える. |
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ISSN: | 0285-2314 2435-7529 |
DOI: | 10.34531/jjhp.60.1_48 |