「よき市民」の規範形成 昭和初期における「不定居」的貧困の場から

本稿は,共通論題で共有する問いに対して,社会政策の対象とされた(あるいはされなかった)人々の主体的な関与に着目して接近することを目標とする。特に,1920年代から1930年代の日本において,「不定居」というかたちの貧困の状態にあった人々に焦点を合わせたい。これらの人々は,生活者としても労働者としても,「社会」との関係性が不完全かつ不安定な状態に置かれていた。その意味でシティズンシップの内と外の境界で生きていた人々である。  本稿の第一の課題は,調査者や支援者たちが,シティズンシップの境界を生きる人々をどのように認識し,これらの人々と「社会」との関係をどのように調整しようとしたのかを考察すること...

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Published in社会政策 Vol. 14; no. 1; pp. 51 - 67
Main Author 冨江, 直子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 社会政策学会 30.06.2022
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ISSN1883-1850
2433-2984
DOI10.24533/spls.14.1_51

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Summary:本稿は,共通論題で共有する問いに対して,社会政策の対象とされた(あるいはされなかった)人々の主体的な関与に着目して接近することを目標とする。特に,1920年代から1930年代の日本において,「不定居」というかたちの貧困の状態にあった人々に焦点を合わせたい。これらの人々は,生活者としても労働者としても,「社会」との関係性が不完全かつ不安定な状態に置かれていた。その意味でシティズンシップの内と外の境界で生きていた人々である。  本稿の第一の課題は,調査者や支援者たちが,シティズンシップの境界を生きる人々をどのように認識し,これらの人々と「社会」との関係をどのように調整しようとしたのかを考察することである。  そして,本稿の第二の課題は,調査や支援の対象とされた人々自身による語りを聞くことである。彼らは「社会」をどのように見ていたのか。「社会」のまなざしの前に,自己をどのように呈示したのか。そして,自らと「社会」との関係をどのようにつくっていこうとしていたのか。 これらの考察を通じて,シティズンシップの境界における「よき市民」の規範の形成過程の一つの側面をあきらかにする。
ISSN:1883-1850
2433-2984
DOI:10.24533/spls.14.1_51