都市近郊地域の物質循環:奈良市大和川流域内における窒素フローの算定

本研究では,奈良県奈良市の大和川流域に含まれる地域を対象とし,「バイオマス資源循環利用診断モデル」を用いて窒素フロー特性の解明および窒素負荷低減策を講じた場合の窒素フローの変動を推定した。奈良市は大阪のベットタウンとして発展してきた地域であり,奈良市の大和川流域に含まれる地域には市全人口の87%が居住している。一方,この地域は森林・農地が全面積の40%近くを占めており,住宅地・農地・森林が混在した状況となっている。対象地域における窒素循環モデルは主に「農地」(水田と水田以外の農地およびそこから生産される農作物),「人間」活動(し尿および食料消費),「水域」(対象地域内河川」),ならびに「森林」...

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Published in環境科学会誌 Vol. 19; no. 6; pp. 495 - 506
Main Authors 松野, 裕, 八丁, 信正, 家島, 章旨, 凌, 祥之
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 社団法人 環境科学会 2006
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Summary:本研究では,奈良県奈良市の大和川流域に含まれる地域を対象とし,「バイオマス資源循環利用診断モデル」を用いて窒素フロー特性の解明および窒素負荷低減策を講じた場合の窒素フローの変動を推定した。奈良市は大阪のベットタウンとして発展してきた地域であり,奈良市の大和川流域に含まれる地域には市全人口の87%が居住している。一方,この地域は森林・農地が全面積の40%近くを占めており,住宅地・農地・森林が混在した状況となっている。対象地域における窒素循環モデルは主に「農地」(水田と水田以外の農地およびそこから生産される農作物),「人間」活動(し尿および食料消費),「水域」(対象地域内河川」),ならびに「森林」,のコンパートメントを中心にして構成し,これらの間を移動する窒素フローを算出した。 モデルの検証では,水域へ排出される窒素量の推定値が実測値と比べて年間約13トン過大評価され,R2=0.62(1%水準で有意)という相関を得た。また,モデルの推定結果によると対象地域から流出する窒素のほとんどが人間活動に起因し,水域への全排出窒素の78%が家庭雑排水および生活排水処理水に由来していることが明らかになった。 窒素負荷軽減のシナリオとして(1)生活排水処理施設を変更した場合,(2)河川水を非灌漑期に水田に導入して窒素を吸着した場合の負荷減少量を推定した。また,人間から出る生ごみを有効利用するため(3)生ごみ堆肥化施設を導入した場合の化学肥料削減効果の検討も行った。算定の結果,下流域への窒素負荷削減率は,(1)のシナリオで最大約40%,(2)で最大約45%であった。また,(3)のシナリオでは域内から排出される有機性窒素廃棄物の8%(「人間」から排出される生ゴミの60%)を堆肥化した場合,域内で消費される化学肥料に相当する窒素成分をまかなえることが示された。
ISSN:0915-0048
1884-5029
DOI:10.11353/sesj1988.19.495