黒毛和種牛の赤血球膜蛋白異常症に関する病態生理学的および遺伝学的研究
1991~1993年に、溶血性貧血の黒毛和種新生子牛6例に遭遇した。症例は、虚弱で起立不能であった。血液像は赤血球のcentral pallorの消失した球状赤血球が多数観察され赤血球脆弱性が亢進していた。症例の赤血球の異常について、自己免疫性疾患、赤血球内酵素、膜蛋白質について検討を行った。その結果、赤血球膜蛋白質(Band-3)の欠損による「赤血球膜蛋白質異常症」であることが分かった。赤血球膜蛋白異常の疾患は、ヒトでは常染色体優性遺伝での発症が知られている。本症の遺伝性を検討するために、母牛6頭と非血縁牛15頭について、臨床検査、血液・生化学的検査、赤血球形態、赤血球脆弱性、赤血球膜蛋白質...
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Published in | 東北家畜臨床研究会誌 Vol. 19; no. 2; pp. 63 - 73 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本家畜臨床学会
01.11.1996
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Subjects | |
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Summary: | 1991~1993年に、溶血性貧血の黒毛和種新生子牛6例に遭遇した。症例は、虚弱で起立不能であった。血液像は赤血球のcentral pallorの消失した球状赤血球が多数観察され赤血球脆弱性が亢進していた。症例の赤血球の異常について、自己免疫性疾患、赤血球内酵素、膜蛋白質について検討を行った。その結果、赤血球膜蛋白質(Band-3)の欠損による「赤血球膜蛋白質異常症」であることが分かった。赤血球膜蛋白異常の疾患は、ヒトでは常染色体優性遺伝での発症が知られている。本症の遺伝性を検討するために、母牛6頭と非血縁牛15頭について、臨床検査、血液・生化学的検査、赤血球形態、赤血球脆弱性、赤血球膜蛋白質の分析を行った。母牛6頭は非血縁牛より球状赤血球の出現率が高く、赤血球脆弱性も母牛では非血縁牛に比べ軽度に亢進していた。新鮮血および24時間孵置血による食塩水濃度0.5%溶血度は、非血縁牛に比べ母牛で有意(p<0.01)に高かった。バンド-3と4.2の割合について検討を行った結果、母牛は、症例と非血縁牛の中間型であった。この結果から、遺伝子型と症例のようにバンド-3が完全欠損した個体を(AA)、母牛のように中間型を(Aa)、非血縁牛のように100%の発現を(aa)と仮定した遺伝様式の検討では、全家系で「常染色体不完全優性遺伝」によって発症する仮説が成立した。したがって本症は「遺伝性赤血球膜蛋白異常症」と分かった。本症は、赤血球脆弱性試験で遺伝子型の推定が可能なため、A牧場において繁殖牛の遺伝子型診断を行い、全母牛に因子を保有しないと推定した種雄牛の交配を計画した。コントロール前後の出生子牛の遺伝子型頻度を比較した結果、出生子牛にホモ接合体は出現せず、ヘテロ接合体の遺伝子型頻度もコントロール前後で54%から22%へ減少した。以上のことから、臨床現場において遺伝的コントロールが可能であることが証明された。 |
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Bibliography: | 580773 ZZ00014847 |
ISSN: | 0916-7579 1883-4590 |
DOI: | 10.4190/jjvc1990.19.63 |