駿河湾におけるイトヒキベラの生殖腺形成と雌雄同体現象

駿河湾産のイトヒキベラCirrhilabrus temminckiについて生殖腺の組織学的研究と外部形態の観察によって, 幼期における生殖腺形成ならびに生殖機能と雌雄同体現象の関連を検討した.全長11.4-19.5mmの個体の生殖腺は性的に未分化の状態にあるが, 全長21.1-29.6mmの個体では, 減数分裂前期の生殖細胞が増加して肥大卵母細胞も出現し, parovarian typeの卵巣形成を開始して, 全長31.0-40.4mmで生殖腺の卵巣分化が明らかとなり, 未分化生殖腺から精巣に分化する例は見出されなかった.卵巣は両性生殖腺を経由して二次精巣に変わる.駿河湾における本種の繁殖期は...

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Published inGyoruigaku zasshi Vol. 37; no. 3; pp. 256 - 264
Main Authors 小林, 弘治, 鈴木, 克美
Format Journal Article
LanguageEnglish
Japanese
Published 一般社団法人 日本魚類学会 1990
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Summary:駿河湾産のイトヒキベラCirrhilabrus temminckiについて生殖腺の組織学的研究と外部形態の観察によって, 幼期における生殖腺形成ならびに生殖機能と雌雄同体現象の関連を検討した.全長11.4-19.5mmの個体の生殖腺は性的に未分化の状態にあるが, 全長21.1-29.6mmの個体では, 減数分裂前期の生殖細胞が増加して肥大卵母細胞も出現し, parovarian typeの卵巣形成を開始して, 全長31.0-40.4mmで生殖腺の卵巣分化が明らかとなり, 未分化生殖腺から精巣に分化する例は見出されなかった.卵巣は両性生殖腺を経由して二次精巣に変わる.駿河湾における本種の繁殖期は6-9月で, 卵巣機能を果たす最小の個体の大きさは全長50.4mm, 精巣機能を果たす最小の個体の大きさは全長88.2mmであった.雌雄両相が共存する生殖腺は, 繁殖期をはさむ4-7月と9-10月にそれぞれ見出された.ただし, 4-6月の両性生殖腺には雌相から雄相への移行の進展傾向は認められず, これらは当年の繁殖期には卵巣機能を果たすものと判断された.一方, 7-10月の間性像は明らかに雌性先熟雌雄同体現象の過程に含まれるものであった.また, 4月に小型個体だけで成る群から採集された標本中には, 全長約38mmの個体の生殖腺に雄性化が発現し, 二次精巣が全長約58mmの個体に出現している.本種は一次雄が存在しないmonandric typeである.体色が明瞭な終相を呈する個体は二次雄で, 始相を呈する個体には雌, 性移行中の個体, 二次雄の3者が存在する.本種の特徴とされる糸状の腹鰭第2軟条は, 体の成長に伴って伸長し, 結果的に雄では著しい伸長が見られることが明らかにされた.
Bibliography:511443
ZZ20005607
ISSN:0021-5090
1884-7374
DOI:10.11369/jji1950.37.256