28.SELDIプロテインチップシステムによる卵巣癌患者血清の解析と診断法の開発
【目的】SELDIプロテインチップシステムは液体クロマトグラフィのイオン交換や逆相カラムの樹脂と同様の加工を施したチップ上にタンパク質を吸着させ, 吸着したタンパク質を質量分析計で検出するタイプのMALDI-TOF-MASSである. チップ上でいわばカラム操作をすることになるので, 体液などのクルードなサンプルをそのまま処理することができる. また, タンパク質の検出をMALDI-TOF-MASSで行うため, 必要なサンプル量が微量ですみ, かつ解析速度も速いという利点がある. 2002年Lancet*にこのプロテインチップシステムで卵巣癌患者の診断が可能であるとの報告が出された. この方法を...
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Published in | 生物物理化学 Vol. 47; no. suppl; p. 47 |
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Main Authors | , , , , , , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本電気泳動学会
2003
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ISSN | 0031-9082 |
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Summary: | 【目的】SELDIプロテインチップシステムは液体クロマトグラフィのイオン交換や逆相カラムの樹脂と同様の加工を施したチップ上にタンパク質を吸着させ, 吸着したタンパク質を質量分析計で検出するタイプのMALDI-TOF-MASSである. チップ上でいわばカラム操作をすることになるので, 体液などのクルードなサンプルをそのまま処理することができる. また, タンパク質の検出をMALDI-TOF-MASSで行うため, 必要なサンプル量が微量ですみ, かつ解析速度も速いという利点がある. 2002年Lancet*にこのプロテインチップシステムで卵巣癌患者の診断が可能であるとの報告が出された. この方法を当大学でも導入できないものか検討を始めたが, 通常の作業の中ではそのままで導入できないことが判った. そこで, 私達は新たに卵巣癌患者血清を解析することで, 新規のマーカーを検索すると共に診断法の開発を試みた. 【方法】インフォームドコンセントを得た60名の健常女性と52名の卵巣癌患者の計112名の血清を用いた. これら112名分の血清をイオン交換チップ, 金属アフィニティチップ, 逆相チップでそれぞれ処理し, タンパク質の吸着と洗浄を行った. チップに吸着したタンパク質はMALDI-TOF-MASSであるプロテインチップリーダーで検出し, 同装置付属の解析ソフトであるPeaksのBiomarker Wizardという機能を用いて解析した. さらに, 診断法を開発するためにBiomarker Wizardで解析した結果をBiomarker Patternsで再解析し, 診断のための決定木を作成した. 【成績】健常女性2名の血清と6名の卵巣癌患者血清を用いた予備実験で陽イオン交換チップ, 銅, アフィニティチップ, ニッケル, アフィニティチップ, 逆相チップでそれぞれ血清を処理するのがよい条件であることが判った. そこで60名の健常女性と52名の卵巣癌患者の計112名の血清を上記4種類のチップで処理し, 解析を行ったところ, 非常に多くのタンパク質ピークで健常女性と卵巣癌患者間で発現に差が認められた. さらに, これらの結果を用い決定木の作成を行ったところ, 仮ではあるがそれぞれの条件で健常者の認識率が60~90%, 患者認識率が85~100%の決定木を作成することが出来た. 【考察】今回のSELDIプロテインチップシステムを用いた解析の結果, 複数の卵巣癌腫瘍マーカー候補と試作ではあるが診断のための決定木を作成することが出来た. 結果を詳細に検討してみると, 腫瘍マーカーの候補であると考えられた健常者と患者で発現差の大きなタンパク質ピークが必ずしも決定木で用いられる訳ではなかった. 従って今後, 発現差の大きなタンパク質ピークの同定を行っていくと共に, 決定木で用いられているタンパク質ピークの同定を進めていこうと考えている. また, 今回得られた結果をより普遍的なものにするために, より多くの方の協力を得, 大規模に解析を行っていく必要があると考えられた. 【謝辞】今回の解析に協力してくださった多くの健常女性, 卵巣癌患者の方々に感謝いたします. |
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ISSN: | 0031-9082 |