脳外傷後に発話音量の調節障害を来した2症例

脳外傷例は身体機能障害が軽症でも, 認知障害や行動異常が, しばしば社会生活を阻害する要因になる. 今回脳外傷後に自分の置かれた状況にふさわしくない大声で話す症例を2例経験したので報告する. 「症例1」67歳, 男性. 交通事故による脳挫傷, 外傷性くも膜下出血. 平成12年2月25日受傷. 運動麻痺は無かったが, 記憶障害と夜間せん妄, 昼夜逆転に対する薬物療法開始後, 歩行困難となった. 11月14日記憶障害と歩行障害の改善目的で当科入院. 入院時, ハロペリドールの長期投与によるパーキンソン症候群や, 記憶障害, 感情失禁, 嫉妬妄想を認め, 回診中に大声で話すなど, 日常会話での大声が...

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Published inリハビリテーション医学 Vol. 38; no. suppl; p. S242
Main Authors 有馬美智子, 緒方敦子, 川津学, 川平和美, 田中信行
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本リハビリテーション医学会 2001
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Summary:脳外傷例は身体機能障害が軽症でも, 認知障害や行動異常が, しばしば社会生活を阻害する要因になる. 今回脳外傷後に自分の置かれた状況にふさわしくない大声で話す症例を2例経験したので報告する. 「症例1」67歳, 男性. 交通事故による脳挫傷, 外傷性くも膜下出血. 平成12年2月25日受傷. 運動麻痺は無かったが, 記憶障害と夜間せん妄, 昼夜逆転に対する薬物療法開始後, 歩行困難となった. 11月14日記憶障害と歩行障害の改善目的で当科入院. 入院時, ハロペリドールの長期投与によるパーキンソン症候群や, 記憶障害, 感情失禁, 嫉妬妄想を認め, 回診中に大声で話すなど, 日常会話での大声が目立った. HDS15/30. ハロペリドールの中止で歩行障害は改善し, 抗パーキンソン病薬は漸減した. 又, 塩酸チアプリドの増量, 大声に対する口頭での注意, 録音した自分の声を聞かす形での聴覚的フィードバックを行った. 退院時には, 声を抑制して話せるようになった. 頭部MRIでは, 前頭葉眼窩部に病巣がみられた. 「症例2」66歳, 女性. 交通事故による外傷性脳幹部損傷及び左下腿開放骨折. 平成10年11月10日受傷. その後, 1本杖歩行可となり, 7月2日自宅復帰準備の目的で当科入院. 入院時, 記憶障害, 感情失禁があり, 状況にふさわしくない大声がみられた. HDS19/30. 大声は, 塩酸チアプリドの薬物投与, 抑制訓練で徐々に改善し, 退院時にはほとんど目立たなくなった. この2例は, 前頭前野の障害による状況判断や注意制御の障害があるのではないかと考えられた.
ISSN:0034-351X