先天性アンチトロンビンIII欠損症患者に対する 両肺動脈血栓内膜摘除術の麻酔経験 先天性アンチトロンビンIII欠損症, 慢性肺血栓塞栓症, 両肺動脈血栓内膜摘除術

今回, 先天性アンチトロンビンIII(以下ATIII)欠損症患者の慢性肺血栓塞栓症に対して超低温循環停止下両肺動脈血栓内膜摘除術の麻酔を経験したので報告する. 【症例】33才男性. 30才時より慢性肺血栓塞栓症を発症し, 先天性ATIII欠損症と診断されていた. 父, 祖父ともに慢性肺血栓塞栓症であった. 今回右心不全症状が強くなり上室性不整脈が頻発してきたため緊急手術となった. NYHA IV度で低酸素血症, 高度肺高血圧(75/42mmHg)及び低心拍出を認めた. 麻酔は酸素, ドルミカム, フェンタニルベクロニウムで導入, 維持した. 導入後ATIII濃縮製剤を1000 単位静注し, 抗...

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Published in蘇生 Vol. 21; no. 3; p. 215
Main Authors 垂井薫, 関山裕詩, 碓井久子, 久住映子, 林田真和, 有田英子, 花岡一雄
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本蘇生学会 2002
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Summary:今回, 先天性アンチトロンビンIII(以下ATIII)欠損症患者の慢性肺血栓塞栓症に対して超低温循環停止下両肺動脈血栓内膜摘除術の麻酔を経験したので報告する. 【症例】33才男性. 30才時より慢性肺血栓塞栓症を発症し, 先天性ATIII欠損症と診断されていた. 父, 祖父ともに慢性肺血栓塞栓症であった. 今回右心不全症状が強くなり上室性不整脈が頻発してきたため緊急手術となった. NYHA IV度で低酸素血症, 高度肺高血圧(75/42mmHg)及び低心拍出を認めた. 麻酔は酸素, ドルミカム, フェンタニルベクロニウムで導入, 維持した. 導入後ATIII濃縮製剤を1000 単位静注し, 抗凝固剤としてヘパリンを使用した. 人工心肺を用いて16℃の超低体温として間歇的な循環停止下に両肺血栓内膜摘除術が施行され, 大量の白色器質化血栓が除去された. PGE1持続静注, 一酸化窒素投与を使用したものの, 肺高血圧は残存した. 人工心肺からの離脱には難渋し, PCPSを導入して酸素化を維持しながら緊急手術を終了した. 7日後PCPS離脱し, その後状態は安定したためCCUより一般病棟に転科となった. なお, 入院時のATIII活性は20%, 術後は80%であった. 【考察】先天性ATIII欠損症は常染色体優性遺伝疾患であり, 遺伝的に構造上または機能上異常のあるATIIIが産生されるため, 深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症を生じやすい. 本症では血栓予防だけでなく, 人工心肺でのヘパリンによる抗凝固のためにもATIII濃縮製剤の投与は必須である. 肺高血圧にPGE1持続静注や一酸化窒素投与も有効ではあるが, 今回はそれらでは対処できずPCPSの導入となった. 結果的にはPCPS導入が好転の契機をつくったと考えられる. 【結語】先天性ATIII欠損症を有する慢性肺血栓塞栓症患者に対する両肺動脈血栓内膜摘除術の麻酔を経験した.
ISSN:0288-4348