I-P5-4 摂食嚥下のQOLが改善した舌癌術後患者の1例

【はじめに】通常われわれが「おいしさ」を感じる中で味覚の占める割合は大きい. 入院治療中の高齢者においては, 薬剤が影響した亜鉛不足による味覚障害や, 加齢による味覚の鈍化を認め, 摂食嚥下におけるQOLの低下があると考えられる. しかし実際は味覚以外にも嗅覚や視覚, 温度, 食感などの感覚情報があり, それらが統合・分析されて「おいしい」と感じる. 今回われわれは舌癌術後で味覚が低下したにもかかわらず食形態を変えることにより, 摂食嚥下におけるQOLの改善がみられた症例を経験したので報告する. 【症例】82歳, 女性. 舌癌に対し平成5年11月から翌年1月にかけて放射線化学療法を施行した....

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Published in日本摂食・嚥下リハビリテーション学会雑誌 Vol. 12; no. 3; p. 357
Main Authors 堀由香, 石丸啓, 山本輪子, 山田恵, 堀越裕紀子, 齊田智美, 阿部仁郎, 竹内健, 飯田貴之, 渡邊文利, 花井洋行
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会 2008
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Summary:【はじめに】通常われわれが「おいしさ」を感じる中で味覚の占める割合は大きい. 入院治療中の高齢者においては, 薬剤が影響した亜鉛不足による味覚障害や, 加齢による味覚の鈍化を認め, 摂食嚥下におけるQOLの低下があると考えられる. しかし実際は味覚以外にも嗅覚や視覚, 温度, 食感などの感覚情報があり, それらが統合・分析されて「おいしい」と感じる. 今回われわれは舌癌術後で味覚が低下したにもかかわらず食形態を変えることにより, 摂食嚥下におけるQOLの改善がみられた症例を経験したので報告する. 【症例】82歳, 女性. 舌癌に対し平成5年11月から翌年1月にかけて放射線化学療法を施行した. その後平成15年3月舌癌再発と診断され, 同年4月右舌半側切除術, 上頚部郭清術, 前腕皮弁再建術を行った. その後は再発を認めず自宅で自立した生活をおくり, 食事はミキサー食を食べていた. 平成19年3月肺炎を発症し入院となった. 味覚に関して濾紙ディスク法による検査を行ったところ味覚認知不能であり, 摂食嚥下におけるQOLの低下があると考えられた. 入院後の嚥下造影検査で誤嚥を認めなかったので段階的経口摂取訓練を開始した. 誤嚥に注意しながらミキサー食から全粥刻み食へと形態を上げていったところ「おいしい」と話し, その後も問題なく全量摂取可能であった. 【考察】摂食嚥下障害患者にとって, 食形態も「おいしい」と感じる重要な要素と思われる. 本症例において, ミキサー食よりも刻み食の方が「おいしい」と感じたのは, 触感が増したため, 臭覚や視覚からの情報とそれに基づく過去の記憶によるもの, そして食に対する前向きなパーソナリティが関連していると思われる. われわれ栄養士は, 患者の摂食嚥下におけるQOLの改善を得るために, 個々の嚥下状態を理解し, その上で食形態を検討し, 臭覚や視覚など味覚以外に訴えるものの工夫をすることが必要と思われた.
ISSN:1343-8441