64 痴呆性高齢者のADLの難易度
本研究の目的は, 痴呆性高齢者のADLの難易度を明らかにすることである. 対象は2003年8月1日から同年11月20日までに介護老人保健施設である当施設に入所した要介護高齢者の内, 65歳以上で著明な視力障害を有しない130名(男性28名, 女性102名)である. 痴呆の重症度評価は, 行動観察式のNMスケールを, ADLの評価はFIMの運動項目を用いた. 痴呆の重症度, 及びADLの評価は, 日々ケアを行なっている介護職員と担当の療法士が共同で実施した. 130名の痴呆の重症度は, 「正常境界が15名(平均年齢81.2±8.3歳), 軽症が19名(平均年齢85. 9±8. 1歳), 中等症が...
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Published in | 理学療法学 Vol. 31; no. suppl-2.1; p. 32 |
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Main Authors | , , , , , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本理学療法士協会
2004
|
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Abstract | 本研究の目的は, 痴呆性高齢者のADLの難易度を明らかにすることである. 対象は2003年8月1日から同年11月20日までに介護老人保健施設である当施設に入所した要介護高齢者の内, 65歳以上で著明な視力障害を有しない130名(男性28名, 女性102名)である. 痴呆の重症度評価は, 行動観察式のNMスケールを, ADLの評価はFIMの運動項目を用いた. 痴呆の重症度, 及びADLの評価は, 日々ケアを行なっている介護職員と担当の療法士が共同で実施した. 130名の痴呆の重症度は, 「正常境界が15名(平均年齢81.2±8.3歳), 軽症が19名(平均年齢85. 9±8. 1歳), 中等症が32名(平均年齢18.6±7.2歳), 重症が64名(平均年齢82.4±7.9歳)であり, 4群の平均年齢には統計的なな有意差は認められない. ADLの難易度は, FIMにおいて修正自立, 及び完全自立と評価された者の全体に占める百分率, (以下, 自立度)を用いた. 統計処理はX2検定を用い, 有意水準は5%未満とした. FIMの13運動項目の内, 「浴槽, シヤワー移乗」「階段」は痴呆の重症度に関わらず, 自立している者はほとんど存在しなかった. その他の11項目では, 痴呆の重症度とADLの自立度に有意な関連が認められた. 痴呆の重症度が正常境界では, 自立度は「食事」「整容」が90%以上, 「トイレ動作」「排尿コントロール」「排便コントロール」「ベッド, 椅子, 車椅子移乗」「トイレ移乗」「歩行, 車椅子移動」が80%以上, 「更衣(上半身)」が70%以上, 「清拭(入浴)」「更衣(下半身)」が50%前後であり, 「浴槽, シャワー移乗」「階段」は0%であった. 軽症では, 全体的に自立度は低下するが, 正常境界と同様のADLの難易度パターン(以下, パターン)は維持されていた. 中等症では, 自立度は著明に低下し, パターンもしだいに崩れてきた. 重症では, 「食事」が約50%, 「ベッド, 椅子, 車椅子移乗」「トイレ移乗」「歩行, 車椅子移動」が約30%の自立度であり, その他の項目では自立している者はほとんど存在しなかった. 認知機能障害を有さない正常境界のパターンは, 運動機能障害を有する要介護高齢者のADLの難易度を示していると思われる. 正常境界のパターンが崩れない軽症レベルは, 認知機能の低下が運動機能障害に伴うADLの難易度に決定的な影響を与えていないことを意味していると考えられる. しかし, 痴呆が中等症以上に進行すれば, 正常境界, 及び軽症レベルのパターンはしだいに崩れていく. このことは, 中等症, 及び重症レベルのADLの難易度が, 運動機能障害以上に認知機能障害の影響を強く受けていることを意味していると考えられる. 以上の知見より, 痴呆性高齢者のADLめ難易度は, 痴呆の重症化に伴い, 運動機能障害から認知機能障害の影響が強く働くことが示唆された. |
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AbstractList | 本研究の目的は, 痴呆性高齢者のADLの難易度を明らかにすることである. 対象は2003年8月1日から同年11月20日までに介護老人保健施設である当施設に入所した要介護高齢者の内, 65歳以上で著明な視力障害を有しない130名(男性28名, 女性102名)である. 痴呆の重症度評価は, 行動観察式のNMスケールを, ADLの評価はFIMの運動項目を用いた. 痴呆の重症度, 及びADLの評価は, 日々ケアを行なっている介護職員と担当の療法士が共同で実施した. 130名の痴呆の重症度は, 「正常境界が15名(平均年齢81.2±8.3歳), 軽症が19名(平均年齢85. 9±8. 1歳), 中等症が32名(平均年齢18.6±7.2歳), 重症が64名(平均年齢82.4±7.9歳)であり, 4群の平均年齢には統計的なな有意差は認められない. ADLの難易度は, FIMにおいて修正自立, 及び完全自立と評価された者の全体に占める百分率, (以下, 自立度)を用いた. 統計処理はX2検定を用い, 有意水準は5%未満とした. FIMの13運動項目の内, 「浴槽, シヤワー移乗」「階段」は痴呆の重症度に関わらず, 自立している者はほとんど存在しなかった. その他の11項目では, 痴呆の重症度とADLの自立度に有意な関連が認められた. 痴呆の重症度が正常境界では, 自立度は「食事」「整容」が90%以上, 「トイレ動作」「排尿コントロール」「排便コントロール」「ベッド, 椅子, 車椅子移乗」「トイレ移乗」「歩行, 車椅子移動」が80%以上, 「更衣(上半身)」が70%以上, 「清拭(入浴)」「更衣(下半身)」が50%前後であり, 「浴槽, シャワー移乗」「階段」は0%であった. 軽症では, 全体的に自立度は低下するが, 正常境界と同様のADLの難易度パターン(以下, パターン)は維持されていた. 中等症では, 自立度は著明に低下し, パターンもしだいに崩れてきた. 重症では, 「食事」が約50%, 「ベッド, 椅子, 車椅子移乗」「トイレ移乗」「歩行, 車椅子移動」が約30%の自立度であり, その他の項目では自立している者はほとんど存在しなかった. 認知機能障害を有さない正常境界のパターンは, 運動機能障害を有する要介護高齢者のADLの難易度を示していると思われる. 正常境界のパターンが崩れない軽症レベルは, 認知機能の低下が運動機能障害に伴うADLの難易度に決定的な影響を与えていないことを意味していると考えられる. しかし, 痴呆が中等症以上に進行すれば, 正常境界, 及び軽症レベルのパターンはしだいに崩れていく. このことは, 中等症, 及び重症レベルのADLの難易度が, 運動機能障害以上に認知機能障害の影響を強く受けていることを意味していると考えられる. 以上の知見より, 痴呆性高齢者のADLめ難易度は, 痴呆の重症化に伴い, 運動機能障害から認知機能障害の影響が強く働くことが示唆された. |
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