腫瘍選択的ポルフィリン蛍光に対するNOの効果

[Background and Aims]患者のQOLを維持する観点から, 胃癌は胃切除術を避け, 内視鏡的治療を第一選択とする方向にあり, 光化学療法(PDT)は, 益々重要視されている. Heme合成のカスケードの始まりの物質である5-ALAを投与すると, 細胞内ではProtoporphyrin IX(PpIX)が生合成され, 正常組織ではさらにfettocheletaseの働きによってPpIXに鉄がキレートされてヘムになるが, 癌組織ではこの酵素反応が阻害されており, PpIXが蓄積することが知られている. この癌細胞特異的なferrocheletaseの作用抑制の機序解明についての検討...

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Published in日本レーザー医学会誌 Vol. 24; no. 3; p. 181
Main Authors 下川治, 松井裕史, 長野由美子, 中村幸夫, 梶原正宏, 竹谷茂, 中原朗, 松崎靖司, 谷中昭典, 柴原健, 田中直見
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本レーザー医学会 28.09.2003
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Abstract [Background and Aims]患者のQOLを維持する観点から, 胃癌は胃切除術を避け, 内視鏡的治療を第一選択とする方向にあり, 光化学療法(PDT)は, 益々重要視されている. Heme合成のカスケードの始まりの物質である5-ALAを投与すると, 細胞内ではProtoporphyrin IX(PpIX)が生合成され, 正常組織ではさらにfettocheletaseの働きによってPpIXに鉄がキレートされてヘムになるが, 癌組織ではこの酵素反応が阻害されており, PpIXが蓄積することが知られている. この癌細胞特異的なferrocheletaseの作用抑制の機序解明についての検討はほとんど行われていない. Ferrocheletaseはフリーラジカルによって容易に不可逆的に破壊されることが知られている. 癌細胞では正常と比較してNOの産生量が多いと推測されるが, この癌特異的なNO産生がferrocheletaseの破壊とポルフィリンの蓄積を惹起する可能性がある. 今回我々は, 癌細胞におけるNOとポルフィリン蓄積の関係を明らかにするため, 胃癌由来の培養細胞系および正常胃粘膜由来の培養細胞系を用い, ALA投与後の細胞内ポルフィリン代謝に対するNOの影響を, 蛍光観察, HPLC, 13C-porphyrinsのNMR解析によって行った. [Methods]細胞はヒト胃癌細胞由来のcell lineであるMKN-45とラット正常胃粘膜細胞由来のcell lineであるRGM-1を用いた. 培地にALA2. 0mMを投与し, それぞれの細胞の蛍光量の変化を倒立顕微鏡と高感度カメラ, 画像処理装置によるシステムによって観察測定した. さらにそれぞれに, NO供与体であるSNAP, SIN-1, L-argininを投与し, 同様に蛍光量の観察測定を行った. さらに13C-ALAをそれぞれの細胞に投与し, ALA及び各種porphyrins, heme, bilirubinの量をNMRによって測定した. [Results]胃癌由来であるMKN-45ではALA投与後経時的に蛍光量の有意な増加を認めた. 一方RGM1ではこのような増加を認めなかった. SNAPおよびSIN-1投与は, 非投与時と比べ, 有意に蛍光度が増加していた. RGM-1はNO供与体の投与にかかわらず蛍光を示さなかった. MKN45の蛍光はHPLCならびに13C-porphyrinsの検討からPpIXであった. NO donorの供与によって細胞内PpIXが増加し, heme量が減少していた. [Conclusion]胃癌由来の細胞培養系でALA投与後PpIXが蓄積し, 固有の蛍光を発するようになること, NOが, この現象を増加させることが初めて確認された. 13C-ALA投与後の13C-pophyrinsの解析から, ferrochelataseの反応が阻害された結果であることが示唆された.
AbstractList [Background and Aims]患者のQOLを維持する観点から, 胃癌は胃切除術を避け, 内視鏡的治療を第一選択とする方向にあり, 光化学療法(PDT)は, 益々重要視されている. Heme合成のカスケードの始まりの物質である5-ALAを投与すると, 細胞内ではProtoporphyrin IX(PpIX)が生合成され, 正常組織ではさらにfettocheletaseの働きによってPpIXに鉄がキレートされてヘムになるが, 癌組織ではこの酵素反応が阻害されており, PpIXが蓄積することが知られている. この癌細胞特異的なferrocheletaseの作用抑制の機序解明についての検討はほとんど行われていない. Ferrocheletaseはフリーラジカルによって容易に不可逆的に破壊されることが知られている. 癌細胞では正常と比較してNOの産生量が多いと推測されるが, この癌特異的なNO産生がferrocheletaseの破壊とポルフィリンの蓄積を惹起する可能性がある. 今回我々は, 癌細胞におけるNOとポルフィリン蓄積の関係を明らかにするため, 胃癌由来の培養細胞系および正常胃粘膜由来の培養細胞系を用い, ALA投与後の細胞内ポルフィリン代謝に対するNOの影響を, 蛍光観察, HPLC, 13C-porphyrinsのNMR解析によって行った. [Methods]細胞はヒト胃癌細胞由来のcell lineであるMKN-45とラット正常胃粘膜細胞由来のcell lineであるRGM-1を用いた. 培地にALA2. 0mMを投与し, それぞれの細胞の蛍光量の変化を倒立顕微鏡と高感度カメラ, 画像処理装置によるシステムによって観察測定した. さらにそれぞれに, NO供与体であるSNAP, SIN-1, L-argininを投与し, 同様に蛍光量の観察測定を行った. さらに13C-ALAをそれぞれの細胞に投与し, ALA及び各種porphyrins, heme, bilirubinの量をNMRによって測定した. [Results]胃癌由来であるMKN-45ではALA投与後経時的に蛍光量の有意な増加を認めた. 一方RGM1ではこのような増加を認めなかった. SNAPおよびSIN-1投与は, 非投与時と比べ, 有意に蛍光度が増加していた. RGM-1はNO供与体の投与にかかわらず蛍光を示さなかった. MKN45の蛍光はHPLCならびに13C-porphyrinsの検討からPpIXであった. NO donorの供与によって細胞内PpIXが増加し, heme量が減少していた. [Conclusion]胃癌由来の細胞培養系でALA投与後PpIXが蓄積し, 固有の蛍光を発するようになること, NOが, この現象を増加させることが初めて確認された. 13C-ALA投与後の13C-pophyrinsの解析から, ferrochelataseの反応が阻害された結果であることが示唆された.
Author 梶原正宏
長野由美子
松井裕史
下川治
松崎靖司
中原朗
柴原健
竹谷茂
田中直見
中村幸夫
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Title 腫瘍選択的ポルフィリン蛍光に対するNOの効果
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