麻酔科医を育てよう

麻酔科医不足がマスコミをにぎわすようになって3~4年が経つ. これで社会が動かされ, 麻酔科医にとってより良い環境ができれば喜ばしいが, 逆に麻酔科医の将来が暗いような雰囲気のみが先行すると麻酔科志望者のこころざしに水を差す. 日本の教師であり反面教師でもある米国では今麻酔科の人気は高い. 麻酔科の人気上昇はこれで二度目である. 一度目は80年代に始まり93年にピークになったがその後クリントンの医療政策で大きく低下し, 96年に底を打った. その後は再び回復軌道に乗り, 2000年に入ってからは90年前半の頃を凌駕し現在に至っている. いずれの場合も有名施設ではレジデントの応募者数が定員の数十...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published in循環制御 Vol. 26; no. 3; p. 181
Main Author 新井達潤
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本循環制御医学会 30.09.2005
Online AccessGet full text
ISSN0389-1844

Cover

Abstract 麻酔科医不足がマスコミをにぎわすようになって3~4年が経つ. これで社会が動かされ, 麻酔科医にとってより良い環境ができれば喜ばしいが, 逆に麻酔科医の将来が暗いような雰囲気のみが先行すると麻酔科志望者のこころざしに水を差す. 日本の教師であり反面教師でもある米国では今麻酔科の人気は高い. 麻酔科の人気上昇はこれで二度目である. 一度目は80年代に始まり93年にピークになったがその後クリントンの医療政策で大きく低下し, 96年に底を打った. その後は再び回復軌道に乗り, 2000年に入ってからは90年前半の頃を凌駕し現在に至っている. いずれの場合も有名施設ではレジデントの応募者数が定員の数十倍を越えた. 90年の頃に入った優秀なレジデントが現在のアメリカ麻酔学会を指導し, 二度目のピークで入った優秀な若者たちが下支えをしている. この麻酔科人気の秘密は, 80年に入ってから麻酔科の領域がICU, ペインにも拡大したこと, academic anesthesiologyの魅力の広宣に努めたことなどがあるが, 何にも増して重要なのは収入である. それぞれの時期の麻酔科医師の収入は40科を越える米国臨床専門科の中で2位, 3位である. 当然のことであるが高収入の魅力で人は集まる. この高収入の秘訣は開業麻酔科医が入院患者に麻酔料を直接請求できるシステムにある(勿論麻酔科のみではなく他科も同じである). 病院の勤務医に見える麻酔科医も実際にはほとんどが院内開業をしている. このシステムでは働けば働くほど収入に結びつくため, 働く意欲が高まり収入が増える. コスト, パフォーマンスの良い麻酔科には当然の結果として志望者が増える. 米国では麻酔科医の7割以上が開業医である. 日本の麻酔科医の収入はどうなっているか. 日本では診療報酬は患者の入院している施設に支払われる. したがって開業をした麻酔科医が他病院へ赴き麻酔をしても麻酔科医は患者に麻酔料を請求することは出来ず, 病院から非常勤医師としての給料を受ける. 病院の請求分から合議により麻酔料を支払うシステムを導入しているところもあるがごく少数である. つまり日本には麻酔科医として麻酔の技術料(ドクターフィ)によって生きるシステムがないのである. 勤務医の収入は給料+アルバイト(正式に承認の)+αである. このαは例えば患者からの謝礼である. 日本的文化の中では無視できない. 他科ではしばしばあるものが麻酔科ではほとんどない. これは特に若い医師の不公平感を募らせる. 多くの日常業務に加え, 全ての科の緊急手術に携わり身を粉にして働いてもそれに対する報酬に不公平があれば若者は集まらない. 病院管理者にはこの辺の事情も理解していただきたい. 多くの事例が示しているとおり, 麻酔科の活性が低下すれば病院全体の医療の質と, そして収入が低下する. 日本の医療の水準を保つためにも優秀な麻酔科医を確保しなければならない. そのためには麻酔科医の院内開業, あるいはドクターフィ制度の導入を強く望む.
AbstractList 麻酔科医不足がマスコミをにぎわすようになって3~4年が経つ. これで社会が動かされ, 麻酔科医にとってより良い環境ができれば喜ばしいが, 逆に麻酔科医の将来が暗いような雰囲気のみが先行すると麻酔科志望者のこころざしに水を差す. 日本の教師であり反面教師でもある米国では今麻酔科の人気は高い. 麻酔科の人気上昇はこれで二度目である. 一度目は80年代に始まり93年にピークになったがその後クリントンの医療政策で大きく低下し, 96年に底を打った. その後は再び回復軌道に乗り, 2000年に入ってからは90年前半の頃を凌駕し現在に至っている. いずれの場合も有名施設ではレジデントの応募者数が定員の数十倍を越えた. 90年の頃に入った優秀なレジデントが現在のアメリカ麻酔学会を指導し, 二度目のピークで入った優秀な若者たちが下支えをしている. この麻酔科人気の秘密は, 80年に入ってから麻酔科の領域がICU, ペインにも拡大したこと, academic anesthesiologyの魅力の広宣に努めたことなどがあるが, 何にも増して重要なのは収入である. それぞれの時期の麻酔科医師の収入は40科を越える米国臨床専門科の中で2位, 3位である. 当然のことであるが高収入の魅力で人は集まる. この高収入の秘訣は開業麻酔科医が入院患者に麻酔料を直接請求できるシステムにある(勿論麻酔科のみではなく他科も同じである). 病院の勤務医に見える麻酔科医も実際にはほとんどが院内開業をしている. このシステムでは働けば働くほど収入に結びつくため, 働く意欲が高まり収入が増える. コスト, パフォーマンスの良い麻酔科には当然の結果として志望者が増える. 米国では麻酔科医の7割以上が開業医である. 日本の麻酔科医の収入はどうなっているか. 日本では診療報酬は患者の入院している施設に支払われる. したがって開業をした麻酔科医が他病院へ赴き麻酔をしても麻酔科医は患者に麻酔料を請求することは出来ず, 病院から非常勤医師としての給料を受ける. 病院の請求分から合議により麻酔料を支払うシステムを導入しているところもあるがごく少数である. つまり日本には麻酔科医として麻酔の技術料(ドクターフィ)によって生きるシステムがないのである. 勤務医の収入は給料+アルバイト(正式に承認の)+αである. このαは例えば患者からの謝礼である. 日本的文化の中では無視できない. 他科ではしばしばあるものが麻酔科ではほとんどない. これは特に若い医師の不公平感を募らせる. 多くの日常業務に加え, 全ての科の緊急手術に携わり身を粉にして働いてもそれに対する報酬に不公平があれば若者は集まらない. 病院管理者にはこの辺の事情も理解していただきたい. 多くの事例が示しているとおり, 麻酔科の活性が低下すれば病院全体の医療の質と, そして収入が低下する. 日本の医療の水準を保つためにも優秀な麻酔科医を確保しなければならない. そのためには麻酔科医の院内開業, あるいはドクターフィ制度の導入を強く望む.
Author 新井達潤
Author_xml – sequence: 1
  fullname: 新井達潤
BackLink https://cir.nii.ac.jp/crid/1573950400261370624$$DView record in CiNii
BookMark eNotjrtKA0EYhaeIYIx5AlvbhX_mn2spwagQsEk_7FwWRjazkMUHyIJiYaP4DNpbmsdZRPMWbojN-ZrvHM4JGeUmxxEZA2pTUM35MZm2bXJAlWRaaRiTs93Xdvfw9vPx8v287bvX3-6z37z33VO_eTwlR1VZt3H6zwlZzi-Xs-ticXt1M7tYFCvDeMEY50JLFOAdIgtVFbSptKukU5FppsAp5WVw1JQUhDMRJBiKwZQQMAJOyPlhNqdkfdonFQqNAA7AJEUFkvFBmx-0VQzJl3WT65SjvWvu13l4Z0MUPq29twxA2H0TcAC1QPUhOFPDV_wDYulUfg
ContentType Journal Article
CorporateAuthor 愛媛大学医学部麻酔・蘇生学
CorporateAuthor_xml – name: 愛媛大学医学部麻酔・蘇生学
DBID RYH
DatabaseName CiNii Complete
DatabaseTitleList
DeliveryMethod fulltext_linktorsrc
Discipline Medicine
EndPage 181
ExternalDocumentID 10019342401
de5circc_2005_002603_001_0181_0181427244
GroupedDBID 29L
2WC
5GY
ABJNI
ALMA_UNASSIGNED_HOLDINGS
DIK
E3Z
GX1
JSF
KQ8
MOJWN
OK1
OVT
RJT
RNS
XSB
RYH
ID FETCH-LOGICAL-m924-2244586350cb332dffd89f8bf6b7e28270b77c6db19a105b9e060913d9a0d3e03
ISSN 0389-1844
IngestDate Fri Jun 27 00:06:17 EDT 2025
Thu Jul 10 16:12:48 EDT 2025
IsPeerReviewed false
IsScholarly true
Issue 3
Language Japanese
LinkModel OpenURL
MergedId FETCHMERGED-LOGICAL-m924-2244586350cb332dffd89f8bf6b7e28270b77c6db19a105b9e060913d9a0d3e03
PageCount 1
ParticipantIDs nii_cinii_1573950400261370624
medicalonline_journals_de5circc_2005_002603_001_0181_0181427244
PublicationCentury 2000
PublicationDate 2005-09-30
PublicationDateYYYYMMDD 2005-09-30
PublicationDate_xml – month: 09
  year: 2005
  text: 2005-09-30
  day: 30
PublicationDecade 2000
PublicationTitle 循環制御
PublicationYear 2005
Publisher 日本循環制御医学会
Publisher_xml – name: 日本循環制御医学会
SSID ssib017628780
ssib000871990
ssib058493376
ssib029852140
ssj0032324
ssib002822017
Score 1.6501381
Snippet 麻酔科医不足がマスコミをにぎわすようになって3~4年が経つ. これで社会が動かされ, 麻酔科医にとってより良い環境ができれば喜ばしいが, 逆に麻酔科医の将来が暗いような雰囲気のみが先行すると麻酔科志望者のこころざしに水を差す. 日本の教師であり反面教師でもある米国では今麻酔科の人気は高い....
SourceID nii
medicalonline
SourceType Publisher
StartPage 181
Title 麻酔科医を育てよう
URI http://mol.medicalonline.jp/library/journal/abstract?GoodsID=de5circc/2005/002603/001&name=0181-0181j
https://cir.nii.ac.jp/crid/1573950400261370624
Volume 26
hasFullText 1
inHoldings 1
isFullTextHit
isPrint
link http://utb.summon.serialssolutions.com/2.0.0/link/0/eLvHCXMwpV1LbxMxELZoDwiEEE9RSlEPzHGRvX6sfUK720UVEpyClFu0D6-USg1SGy7cGgnEgQuI3wB3jvTnRAj6Lxh7nWQjcQhwsZxxMvbsTOxv1p4xIY90ZRpRUhEZXKsjYWgTaSFlZOuGmcbW7kWGO23xQh2-FM-GctjbMXXRJdPqcf3mj3El_6JVpKFeXZTsX2h2yRQJWEf9YokaxnIjHUNhIEshy1xFSzACigTSBAyDQoLOfRMHHYOJodCuksWewiBVoUnrQAnZoo8WzCVkBaSp44k_z6jnqSFTi6aluqBQYJT_inAjMtKPiPkRIf0AUrH2fkEuDkMEi_AMcOjSV3JI80267wkpIT3wImH_OZi0N8EhWIrQwxT92biLnw9Wx3tTK-uudgmr9PLTWq7sxsp6fFLX7nJNOfL50rg7tTdyacl8IeIEAc0W2eLMh4YP-8n7Emb6UcGInejK-WO4bOhkNdvFRiP0WWXKQSRnOHfgrsMB3GFVv4cVpLxKrh13m29dEhREM5PxuIdmBjfI9eCG7KedTd0kl47KW-Ty83DQ4jbZvfh-fvH288-vH398OJ_PPv2afZuffZnP3s_P3t0hg6fFID-Mwj0a0TF61xGCNCE1AktaV5zHTds22rS6alWVWBQyoVWS1KqpmCkRbVfGUuWyxTampA23lN8l25NXE3uP7JdtTbkoZVvaxGUV0sK2sTKsUtYwW-od8mRNxFH4s5yONtXMDtnDhzJCWbFk0m0ju2UG_XyeUBWL-__dwy65sjLzB2R7evLa7iGwnFYPvT38Bl-5UZk
linkProvider Geneva Foundation for Medical Education and Research
openUrl ctx_ver=Z39.88-2004&ctx_enc=info%3Aofi%2Fenc%3AUTF-8&rfr_id=info%3Asid%2Fsummon.serialssolutions.com&rft_val_fmt=info%3Aofi%2Ffmt%3Akev%3Amtx%3Ajournal&rft.genre=article&rft.atitle=%E9%BA%BB%E9%85%94%E7%A7%91%E5%8C%BB%E3%82%92%E8%82%B2%E3%81%A6%E3%82%88%E3%81%86&rft.jtitle=%E5%BE%AA%E7%92%B0%E5%88%B6%E5%BE%A1&rft.au=%E6%96%B0%E4%BA%95%E9%81%94%E6%BD%A4&rft.date=2005-09-30&rft.pub=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%BE%AA%E7%92%B0%E5%88%B6%E5%BE%A1%E5%8C%BB%E5%AD%A6%E4%BC%9A&rft.issn=0389-1844&rft.volume=26&rft.issue=3&rft.spage=181&rft.epage=181&rft.externalDocID=de5circc_2005_002603_001_0181_0181427244
thumbnail_l http://covers-cdn.summon.serialssolutions.com/index.aspx?isbn=/lc.gif&issn=0389-1844&client=summon
thumbnail_m http://covers-cdn.summon.serialssolutions.com/index.aspx?isbn=/mc.gif&issn=0389-1844&client=summon
thumbnail_s http://covers-cdn.summon.serialssolutions.com/index.aspx?isbn=/sc.gif&issn=0389-1844&client=summon