14. 食道破裂と上部空腸穿孔を合併した一例

特発性食道破裂は比較的まれな疾患であり, ほかの消化管穿孔に比べて予後不良である. 一般的に飲酒に伴う嘔吐に起因することが多く, その診断, 治療が遅延すると重篤な転機を取りうる. また小腸穿孔もまれな疾患であり, 異物, 外傷, イレウスなど, その原因はさまざまであるが中でも原因不明の特発性小腸穿孔は日常遭遇することは極めて少ない. 臨床所見に乏しいということもあり術前診断は難しく, 手術時期を逸すると救命し得ない可能性もある. 今回我々は, この特発性食道破裂と特発性小腸穿孔を合併した症例を経験したので報告する. 症例は72歳の男性で腹痛を主訴に近医を受診し入院となったが, CT, 腹部...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published inTHE KITAKANTO MEDICAL JOURNAL Vol. 59; no. 2; p. 197
Main Authors 森島拓, 大木孝, 坂元一郎, 山田達也, 中村正治, 菅野雅之, 高他大輔, 小川晃
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 北関東医学会 01.05.2009
Online AccessGet full text
ISSN1343-2826

Cover

Abstract 特発性食道破裂は比較的まれな疾患であり, ほかの消化管穿孔に比べて予後不良である. 一般的に飲酒に伴う嘔吐に起因することが多く, その診断, 治療が遅延すると重篤な転機を取りうる. また小腸穿孔もまれな疾患であり, 異物, 外傷, イレウスなど, その原因はさまざまであるが中でも原因不明の特発性小腸穿孔は日常遭遇することは極めて少ない. 臨床所見に乏しいということもあり術前診断は難しく, 手術時期を逸すると救命し得ない可能性もある. 今回我々は, この特発性食道破裂と特発性小腸穿孔を合併した症例を経験したので報告する. 症例は72歳の男性で腹痛を主訴に近医を受診し入院となったが, CT, 腹部X線写真にて腹腔内遊離ガス像を認め, 消化管穿孔の診断で当院へ救急搬送された. 来院時, 心窩部に圧痛を認めたが, 腹膜刺激症状は比較的軽度であった. 画像・腹部所見から上部消化管穿孔と考えられ, 血液検査で高度の脱水を認めたため, 補液をはじめとした保存的治療を開始した. その後, 胸部X線写真で左大量胸水の貯留と左気胸を認め, 呼吸状態が悪化, また脱水も進行し急性腎不全となった. 左胸腔ドレーンを挿入すると胃管からの排液と同じ性状の排液が多量に排出され, 特発性食道破裂が疑われたため同日緊急手術を施行した. 術前, 麻酔導入後に上部消化管内視鏡検査を施行したところ, 下部食道左壁に広汎に粘膜壊死及び穿孔部を認めた, また十二指腸にわずかに出血を伴う多発びらん・潰瘍を認めたが胃・十二指腸下行脚まででは明らかな穿孔部は確認できなかった. 手術は全身麻酔下で左側胸部から右側腹部にかけて斜切開にて開胸開腹し, 腹腔内を検索したところ, トライツ靭帯からすぐ尾側の小腸に米粒大ほどの穿孔部を認めたため, 直接縫合閉鎖した. また, 下部食道左壁の穿孔部に対して結節縫合閉鎖の後, 同部を食道裂孔を通して挙上した大網にて被覆した. 術後食道穿孔閉鎖部でminor leakageあり, 感染のコントロールにやや難渋したが, 他特に重篤な合併症なく第60病日で退院となった. 術後食道穿孔閉鎖部で狭窄あり, バルーン拡張術を2回施行したが, その後は狭窄もなくなり, 現在外来にて経過観察中である. 本症例は特発性小腸穿孔と特発性食道破裂というともに稀な疾患を合併した非常に珍しい症例である. 両疾患の因果関係は明らかではないが, 当初は胸水貯留や呼吸困難もなかったため, 小腸穿孔が先行し, それによる嘔吐が誘因となって特発性食道破裂が発症したものと思われる. 特発性小腸穿孔, 特発性食道破裂ともに発症24時間以内に手術を行った場合は予後が良いとされている. しかし, 診断が困難な場合も多く, 消化管穿孔の可能性が否定しきれない場合は経時的な理学所見の注意深い観察を行い, 積極的なCTの再評価によって早期診断・早期治療を行うことが重要である.
AbstractList 特発性食道破裂は比較的まれな疾患であり, ほかの消化管穿孔に比べて予後不良である. 一般的に飲酒に伴う嘔吐に起因することが多く, その診断, 治療が遅延すると重篤な転機を取りうる. また小腸穿孔もまれな疾患であり, 異物, 外傷, イレウスなど, その原因はさまざまであるが中でも原因不明の特発性小腸穿孔は日常遭遇することは極めて少ない. 臨床所見に乏しいということもあり術前診断は難しく, 手術時期を逸すると救命し得ない可能性もある. 今回我々は, この特発性食道破裂と特発性小腸穿孔を合併した症例を経験したので報告する. 症例は72歳の男性で腹痛を主訴に近医を受診し入院となったが, CT, 腹部X線写真にて腹腔内遊離ガス像を認め, 消化管穿孔の診断で当院へ救急搬送された. 来院時, 心窩部に圧痛を認めたが, 腹膜刺激症状は比較的軽度であった. 画像・腹部所見から上部消化管穿孔と考えられ, 血液検査で高度の脱水を認めたため, 補液をはじめとした保存的治療を開始した. その後, 胸部X線写真で左大量胸水の貯留と左気胸を認め, 呼吸状態が悪化, また脱水も進行し急性腎不全となった. 左胸腔ドレーンを挿入すると胃管からの排液と同じ性状の排液が多量に排出され, 特発性食道破裂が疑われたため同日緊急手術を施行した. 術前, 麻酔導入後に上部消化管内視鏡検査を施行したところ, 下部食道左壁に広汎に粘膜壊死及び穿孔部を認めた, また十二指腸にわずかに出血を伴う多発びらん・潰瘍を認めたが胃・十二指腸下行脚まででは明らかな穿孔部は確認できなかった. 手術は全身麻酔下で左側胸部から右側腹部にかけて斜切開にて開胸開腹し, 腹腔内を検索したところ, トライツ靭帯からすぐ尾側の小腸に米粒大ほどの穿孔部を認めたため, 直接縫合閉鎖した. また, 下部食道左壁の穿孔部に対して結節縫合閉鎖の後, 同部を食道裂孔を通して挙上した大網にて被覆した. 術後食道穿孔閉鎖部でminor leakageあり, 感染のコントロールにやや難渋したが, 他特に重篤な合併症なく第60病日で退院となった. 術後食道穿孔閉鎖部で狭窄あり, バルーン拡張術を2回施行したが, その後は狭窄もなくなり, 現在外来にて経過観察中である. 本症例は特発性小腸穿孔と特発性食道破裂というともに稀な疾患を合併した非常に珍しい症例である. 両疾患の因果関係は明らかではないが, 当初は胸水貯留や呼吸困難もなかったため, 小腸穿孔が先行し, それによる嘔吐が誘因となって特発性食道破裂が発症したものと思われる. 特発性小腸穿孔, 特発性食道破裂ともに発症24時間以内に手術を行った場合は予後が良いとされている. しかし, 診断が困難な場合も多く, 消化管穿孔の可能性が否定しきれない場合は経時的な理学所見の注意深い観察を行い, 積極的なCTの再評価によって早期診断・早期治療を行うことが重要である.
Author 小川晃
菅野雅之
山田達也
中村正治
大木孝
坂元一郎
高他大輔
森島拓
Author_xml – sequence: 1
  fullname: 森島拓
– sequence: 2
  fullname: 大木孝
– sequence: 3
  fullname: 坂元一郎
– sequence: 4
  fullname: 山田達也
– sequence: 5
  fullname: 中村正治
– sequence: 6
  fullname: 菅野雅之
– sequence: 7
  fullname: 高他大輔
– sequence: 8
  fullname: 小川晃
BookMark eNotjTFLw0AYhm-oYK39D_6ByHffXXI5NylWhYKLzsflcoXYNAGju6kIoouo4FihSzu4KQRB_TFJSfsvLNR3eJ7tebdII0kT2yBNyjhz0Edvk7SzLAoAcDWJvEn2KN_dWU7Gy_y5fvtYTEZlPq2K--XNtJ59LW6LevY7f38pR0_zx7vq-7PMX8t8XBXX1c_DNtno6ziz7X-3yFn34LRz5PRODo87-z1nSEGAI4RnDDfclWisi670paGcBRSosGCCkAKzVEiuGfq-9lzal2g9LUBzyRFYi3TX3aENI6PjNImjxKrz9OoiWf2q0LJBdKkHCgGkAnAloAJXKKByDfQ8hpL9AdbXXow
ContentType Journal Article
CorporateAuthor 独立行政法人国立病院機構高崎病院外科
独立行政法人国立病院機構高崎病院病理
CorporateAuthor_xml – name: 独立行政法人国立病院機構高崎病院外科
– name: 独立行政法人国立病院機構高崎病院病理
DatabaseTitleList
DeliveryMethod fulltext_linktorsrc
Discipline Medicine
EndPage 197
ExternalDocumentID de3kitak_2009_005902_057_0197_0197266329
GroupedDBID .55
123
2WC
ALMA_UNASSIGNED_HOLDINGS
DIK
E3Z
JMI
JSF
KQ8
MOJWN
OK1
P2P
RJT
W2D
X7J
X7M
ID FETCH-LOGICAL-m1070-776cc4c4592ce525989c143b1017e0cbd103e1794a3288a651f92e6a70a494203
ISSN 1343-2826
IngestDate Thu Jul 10 16:12:45 EDT 2025
IsOpenAccess true
IsPeerReviewed true
IsScholarly true
Issue 2
Language Japanese
LinkModel OpenURL
MergedId FETCHMERGED-LOGICAL-m1070-776cc4c4592ce525989c143b1017e0cbd103e1794a3288a651f92e6a70a494203
OpenAccessLink https://gunma-u.repo.nii.ac.jp/records/6631
PageCount 1
ParticipantIDs medicalonline_journals_de3kitak_2009_005902_057_0197_0197266329
PublicationCentury 2000
PublicationDate 2009-05-01
PublicationDateYYYYMMDD 2009-05-01
PublicationDate_xml – month: 05
  year: 2009
  text: 2009-05-01
  day: 01
PublicationDecade 2000
PublicationTitle THE KITAKANTO MEDICAL JOURNAL
PublicationYear 2009
Publisher 北関東医学会
Publisher_xml – name: 北関東医学会
SSID ssib002222924
ssib003104426
ssib029851801
ssib002219242
ssib028667290
ssib050977700
ssib001535672
ssib000961567
ssib023157378
ssib058493478
ssib001509794
ssj0056934
Score 1.776109
Snippet 特発性食道破裂は比較的まれな疾患であり, ほかの消化管穿孔に比べて予後不良である. 一般的に飲酒に伴う嘔吐に起因することが多く, その診断, 治療が遅延すると重篤な転機を取りうる. また小腸穿孔もまれな疾患であり, 異物, 外傷, イレウスなど,...
SourceID medicalonline
SourceType Publisher
StartPage 197
Title 14. 食道破裂と上部空腸穿孔を合併した一例
URI http://mol.medicalonline.jp/library/journal/abstract?GoodsID=de3kitak/2009/005902/057&name=0197-0197j
Volume 59
hasFullText 1
inHoldings 1
isFullTextHit
isPrint
link http://utb.summon.serialssolutions.com/2.0.0/link/0/eLvHCXMwpV3Na9RAFB_aHkQR0ar4TQ_OSbZM5iOZ8SLJbkprab1sobdlMptCLa2g24sntyKIXkQFjxV6aQ_eFIqg_jG7Zbv_hW8m2c0UPFSFJUxmXt68l5fM-73k5S1Cd7VRaxrirhppE1njOm_XpLEpUBqCZp7xiHD7gfPScji_wh-uitWJyWkva2m7k82a53_8ruRfrAp9YFf7lexfWHbMFDqgDfaFLVgYtqeyccBn7-FU4ZhhNWcbMsCK4TTCMcEJx6m0Q5LilNmhWOKU40RiGTti5nqAWOEktsRS2NGyBxgKHDew4u5wihW1PYpgWfBp4ESUnFU0asyNpiCukWKZ-PjXJhgtLjTjxXi5-WhcW7LMQBoZH6ehlTtO7XwJw0loe2SCFatIQDaO48iOqLpTpJC24ZOohtNeWM1A3Uo0p71MfdoksD9QHhROyOhscneQAsVOPB9RVTaiu6LdHHV3HoAWxKdOsIZj6YaSpJQwDh1LII49j8A4q0FcGvouoyxivu5F7sX6HxTJxiWUGO-dKOjdztnGekdv2H8AVa2igE4LYHML0HaxAdDEqJpEkyxwTwkWFv2IEyLuCjECnlf-kgoODIa9F-XURtj-PqXKK9AP6J7zCoED2hcRqyq8URkCt-pFKlWA0CUZuwQ7e-RVeAQ4q5irEFeAIRGqIrFjdBbPofObxRvIohKMB-aaF9GFMgqbiYtb6hKaeKyn0ZmlMs_kMroPd9bMcG932P0w-Pz1eG-n193vH74ZvtwfHHw_fnU4OPh19OVjb-f90bvX_R_fet1Pve5u__BF_-fbK2hlLm3W52vlv4zUNgPwdxBehsZww4WiJhdUKKkMBBGZ9VU5MVk7ICy3bkszKqUORbCmaB7qiGiuOCXsKpraerKVX0MzjBoNi1xASG64bOuMhkZHOhNrVOSB0dfRgxPKt8q15FnrtNfEjf_mcBOdre6SW2iq83Q7vw24upPdcVfab77wmTE
linkProvider Flying Publisher
openUrl ctx_ver=Z39.88-2004&ctx_enc=info%3Aofi%2Fenc%3AUTF-8&rfr_id=info%3Asid%2Fsummon.serialssolutions.com&rft_val_fmt=info%3Aofi%2Ffmt%3Akev%3Amtx%3Ajournal&rft.genre=article&rft.atitle=14.+%E9%A3%9F%E9%81%93%E7%A0%B4%E8%A3%82%E3%81%A8%E4%B8%8A%E9%83%A8%E7%A9%BA%E8%85%B8%E7%A9%BF%E5%AD%94%E3%82%92%E5%90%88%E4%BD%B5%E3%81%97%E3%81%9F%E4%B8%80%E4%BE%8B&rft.jtitle=THE+KITAKANTO+MEDICAL+JOURNAL&rft.au=%E6%A3%AE%E5%B3%B6%E6%8B%93&rft.au=%E5%A4%A7%E6%9C%A8%E5%AD%9D&rft.au=%E5%9D%82%E5%85%83%E4%B8%80%E9%83%8E&rft.au=%E5%B1%B1%E7%94%B0%E9%81%94%E4%B9%9F&rft.date=2009-05-01&rft.pub=%E5%8C%97%E9%96%A2%E6%9D%B1%E5%8C%BB%E5%AD%A6%E4%BC%9A&rft.issn=1343-2826&rft.volume=59&rft.issue=2&rft.spage=197&rft.epage=197&rft.externalDocID=de3kitak_2009_005902_057_0197_0197266329
thumbnail_l http://covers-cdn.summon.serialssolutions.com/index.aspx?isbn=/lc.gif&issn=1343-2826&client=summon
thumbnail_m http://covers-cdn.summon.serialssolutions.com/index.aspx?isbn=/mc.gif&issn=1343-2826&client=summon
thumbnail_s http://covers-cdn.summon.serialssolutions.com/index.aspx?isbn=/sc.gif&issn=1343-2826&client=summon