Hybrid Assistive Limb を用いた歩行練習による 歩行自立度の改善に影響する要因 ―5症例によるケースシリーズ研究
【目的】 脳卒中後患者の歩行障害に対して、Hybrid Assistive Limb(HAL)による歩行練習が行われている。HALは脳卒中後患者の歩行能力を改善するとの報告が散見される一方で、最新のシステマティックレビューでは歩行能力の改善に対するHALの有効性は示されていない(Takiら、2022)。これは、脳卒中後患者の臨床症状や経過が多様であることに起因すると考えられ、HALを用いた歩行練習により、歩行能力の改善が得られる患者とそうでない患者の特徴を明確にする必要がある。本研究の目的は、HALによる歩行自立度の改善に影響する要因について記述的に検討することとした。【方法】 対象は回復期の...
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Published in | Kyushu physical therapist Congress Vol. 2023; p. 15 |
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Main Authors | , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
2023
Kyushu Physical Therapy Association |
Subjects | |
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ISSN | 2434-3889 |
DOI | 10.32298/kyushupt.2023.0_15 |
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Summary: | 【目的】 脳卒中後患者の歩行障害に対して、Hybrid Assistive Limb(HAL)による歩行練習が行われている。HALは脳卒中後患者の歩行能力を改善するとの報告が散見される一方で、最新のシステマティックレビューでは歩行能力の改善に対するHALの有効性は示されていない(Takiら、2022)。これは、脳卒中後患者の臨床症状や経過が多様であることに起因すると考えられ、HALを用いた歩行練習により、歩行能力の改善が得られる患者とそうでない患者の特徴を明確にする必要がある。本研究の目的は、HALによる歩行自立度の改善に影響する要因について記述的に検討することとした。【方法】 対象は回復期の脳卒中後患者5例(症例A:80歳代前半、女性、延髄梗塞、症例B:70歳代前半、女性、皮質下出血、症例C:80歳代後半、女性、側頭後頭葉梗塞、症例D:80歳代後半、女性、橋梗塞、症例E:70歳代前半、女性、内包後脚脳梗塞)とした。症例Cは両側変形性膝関節症および労作性狭心症、症例Eは両側変形性膝関節症が併存していた。HALを使用した歩行練習を1回あたり30分、週3~4回、8週間実施した。介入前、4週後、8週後のFunctional Ambulation Category(FAC)を確認した。また、介入毎の歩行練習距離を記録した。HALによる歩行自立度の改善に影響する要因として、HAL介入開始までの日数、介入前のFugl-Meyer Assessment下肢運動項目(FMA)、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を測定した。なお、本研究はマッターホルンリハビリテーション病院倫理委員会の承認を得て実施した(MRH22001)。【結果】 介入前、4週後、8週後のFACはそれぞれ、症例A:2→3→4、症例B:1→3→3、症例C、D、E:1→2→2であった。介入期間中の歩行練習距離は、症例A:462.9±215.7m、症例B:240.1±130.5m、症例C:191.0±80.2m、症例D:174.4±52.6m、症例E:172.0±79.5m、であった。HAL介入開始までの日数は、症例A:39日、症例B:24日、症例C:26日、症例D:31日、症例E:43日であった。介入前のFMAは症例A:23点、症例B:15点、症例C:20点、症例D:18点、症例E:17点であり、HDS-Rは症例A:26点、症例B:30点、症例C:22点、症例D:14点、症例E:28点であった。【考察】 症例AおよびBでは8週間の介入により歩行自立度が監視レベル以上に改善した。症例Aは運動麻痺の程度が最も軽度であり、最も多くの歩行練習を実施できた。症例Bは運動麻痺の程度が最も重度であったが、認知機能が良好で、より早期に介入を開始できたことで歩行自立度の改善につながったと考えられる。症例C、D、Eでは歩行自立度の改善はみられたが、介助を要するレベルにとどまった。症例Cは運動麻痺の程度は中等度であり、早期に介入が開始できたが、併存した両側変形性膝関節症および労作性狭心症により歩行練習距離を伸ばすことが困難であった。症例Eも同様に、両側変形性膝関節症に起因する歩行時痛の影響により、歩行練習距離の増加が困難であった。症例Dは重度の運動麻痺および認知機能の低下がみられ、歩行練習距離の増加が困難であった。【まとめ】 HALを使用した歩行練習による歩行自立度の改善には、介入開始までの日数や運動麻痺の程度よりも、認知機能の低下や歩行練習に影響する併存疾患の存在が影響する可能性が考えられる。 |
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ISSN: | 2434-3889 |
DOI: | 10.32298/kyushupt.2023.0_15 |