進化生態医学からみた健診と腎疾患

現在の医療は行き詰っている. 日本では世界で最初の超高齢化社会に突入し, 今まで欧米の真似をしてきた医療政策は通用しなくなる. これからは日本独自の, そして世界の規範となるような新しい超高齢化社会に適応した健診も含めた医療システムを構築しなければならない. 今までの医療はVirchowをはじめとする研究者によって, 細胞機能, 組織機能, 器官機能の観点から研究され, ギリシャの青年像にみられるような完璧な機能をもつ人間を目標に治療が行われてきた. ところが, 超高齢化社会に入ると, ほとんどの老人はいくつかの疾病を同時にもち, いかに人生を有意義に過ごすかが目的になり, それに合った治療が...

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Published in総合健診 Vol. 41; no. 2; p. 333
Main Author 飯野靖彦
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本総合健診医学会 10.03.2014
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ISSN1347-0086

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Summary:現在の医療は行き詰っている. 日本では世界で最初の超高齢化社会に突入し, 今まで欧米の真似をしてきた医療政策は通用しなくなる. これからは日本独自の, そして世界の規範となるような新しい超高齢化社会に適応した健診も含めた医療システムを構築しなければならない. 今までの医療はVirchowをはじめとする研究者によって, 細胞機能, 組織機能, 器官機能の観点から研究され, ギリシャの青年像にみられるような完璧な機能をもつ人間を目標に治療が行われてきた. ところが, 超高齢化社会に入ると, ほとんどの老人はいくつかの疾病を同時にもち, いかに人生を有意義に過ごすかが目的になり, それに合った治療が医療者に求められるようになってきた. つまり, cureからcareの時代に入ったのである. そのような医療転換を考えるうえで, 必須の考え方は進化生態医学(Evolutionary Ecological Medicine)である. この概念は, 日本医科大学医療管理学教室教授の長谷川敏彦先生を中心に飯野靖彦も参画して新たに作り上げたものである. 人間ドック健診についてもこの進化生態医学の考え方が重要である. 産業革命以降に発展した企業健診のような企業従業員の健康管理を通して, 企業業績を上昇させる目的はすでに古ぼけた骨董品であり, 超高齢化社会では多くの疾病をかかえた人間が, いかに幸せに人生を全うするかを援助するのが人間ドック健診業務である. 腎疾患に関しても同じことが言える. 急性腎疾患は少なくなり, CKD(Chronic Kidney Disease)と呼ばれる慢性腎臓病が問題となり, その原疾患も糖尿病や高血圧の頻度が高く, 合併症をいくつももつCKD患者がほとんどである. したがって, 腎疾患の健診の役割は, もちろん以前のように予防と早期発見の面も重要であるが, それよりも, いかに腎疾患自体と糖尿病をはじめとする合併症を制御し, よりよい人生を創り上げる目的を持つと考えられる.
ISSN:1347-0086