骨盤骨折に随伴した重篤な呼吸不全, DICにより死亡した1例
われわれは, 多発性骨盤骨折の患者が, ショック後に重篤な呼吸不全, DICを呈し, 急激な経過で死亡した症例を経験した. 本例は剖検の結果, 全身性の脂肪塞栓症候群と診断されたので若干の考察を加えて報告した. 症例は, 72歳女性. 歩行中乗用車にはねられ近医入院. 全身状態は良好であったが, 約8時間後ショックとなり, 治療によりショックは離脱したものの, 血尿, 呼吸状態悪化のため当院ICU転科となった. <転院時現症>血圧160/98mmHg, 脈拍78/min整, 呼吸数24,意識ほぼ清明, 腹部軟, 顔面擦過傷, 腰背部に青色斑. 検査所見にて, 軽度凝固系延長, 高度...
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Published in | 蘇生 Vol. 4; p. 62 |
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Main Authors | , , , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本蘇生学会
01.03.1986
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ISSN | 0288-4348 |
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Summary: | われわれは, 多発性骨盤骨折の患者が, ショック後に重篤な呼吸不全, DICを呈し, 急激な経過で死亡した症例を経験した. 本例は剖検の結果, 全身性の脂肪塞栓症候群と診断されたので若干の考察を加えて報告した. 症例は, 72歳女性. 歩行中乗用車にはねられ近医入院. 全身状態は良好であったが, 約8時間後ショックとなり, 治療によりショックは離脱したものの, 血尿, 呼吸状態悪化のため当院ICU転科となった. <転院時現症>血圧160/98mmHg, 脈拍78/min整, 呼吸数24,意識ほぼ清明, 腹部軟, 顔面擦過傷, 腰背部に青色斑. 検査所見にて, 軽度凝固系延長, 高度の代謝性アシドーシスと低酸素血症. 貧血(-). 胸部X線写真:両肺野内側に強い透過性の低下. KUB:多発性の骨盤骨折, 左腸腰筋陰影不鮮明. スワンガンツカテーテルにて右室負荷所見. <入院後経過>ICU入室後再び血圧が低下し, カテコラミンの投与を開始した. F_I _O2 1.01, PEEP 5cmH_2 Oにて換気するもP/F ratioは100前後にしか上がらず. 呼吸不全, DICの治療としてメチルプレドニソロン, ヘパリン, FOYの投与開始. しかし治療への反応悪く, 胸部X線写真, 血液ガスデータも悪化し, DICが進行. 入室3日目, 肺出血, 消化管出血, 腎不全, 肝機能障害が始まり, 入室4日目に肺出血による低酸素血症にて心停止をきたし死亡した. <病理標本所見>肺:肺胞内出血+脂肪塞栓. 腎:尿細管上皮の脱落+糸球体の脂肪塞栓+微小血栓. 腸:微小血栓+虚血性腸炎. <まとめ>本症例では高度の肺内出血が死因であり, DICが原因していたと考えていたが, 病理所見からは, 遷延する低酸素血症および肺出血は広範な脂肪塞栓, および, それに伴う肺毛細管欝血に関係していたと推測された. 骨折に伴う脂肪塞栓において, 臨床症状を十分に説明できるような剖検結果が得られたことは, 非常に貴重なことと考え報告した. |
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ISSN: | 0288-4348 |