下顎骨前方移動術後に口唇閉鎖不全を呈した骨格性上顎前突の1症例

下顎後退型の上顎前突症患者は, 歯列, 咬合の形態的, 機能的な改善と同時に, 軟組織側貌のダイナミックな改善を期待することが多い. また, 下顎骨前方移動術のみでは側貌の十分な改善が達成されない場合にはオトガイ形成術を適用し, オトガイ部の前方移動が必要となる. 一方, 下顎骨前方移動術では, 手術時の下顎骨周囲軟組織および舌骨上筋群の伸展によって, 術後の骨格的後戻りが惹起されやすいことが知られている. しかし, このような軟組織の変化に伴う機能的問題に関する報告は少ない. 今回われわれは, 下顎後退型の上顎前突症患者に下顎骨前方移動術およびオトガイ形成術を施行し, 術後, 口唇閉鎖不全を...

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Published in日本顎変形症学会雑誌 Vol. 8; no. 2; p. 85
Main Authors 吉田志乃, 守本優子, 丹根一夫, 菅田辰海
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本顎変形症学会 15.08.1998
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ISSN0916-7048

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Summary:下顎後退型の上顎前突症患者は, 歯列, 咬合の形態的, 機能的な改善と同時に, 軟組織側貌のダイナミックな改善を期待することが多い. また, 下顎骨前方移動術のみでは側貌の十分な改善が達成されない場合にはオトガイ形成術を適用し, オトガイ部の前方移動が必要となる. 一方, 下顎骨前方移動術では, 手術時の下顎骨周囲軟組織および舌骨上筋群の伸展によって, 術後の骨格的後戻りが惹起されやすいことが知られている. しかし, このような軟組織の変化に伴う機能的問題に関する報告は少ない. 今回われわれは, 下顎後退型の上顎前突症患者に下顎骨前方移動術およびオトガイ形成術を施行し, 術後, 口唇閉鎖不全を呈した症例について報告する. 症例:初診時年齢16歳8ヵ月の女性で, 上顎前突を主訴として来院した. 上顎前歯の唇側傾斜, 叢生, 下顎骨の過小および後退位が認められ, 下顎後退型の上顎前突で外科的矯正治療が適応と診断された. 両側上顎第一小臼歯, 右側下顎第二, 左側下顎第一小臼歯抜去後, 術前矯正治療を行い, 下顎枝矢状分割術による下顎骨前方移動術およびオトガイ形成術を適用した. 下顎骨前方移動量は4.5mm, オトガイ形成術によるオトガイ部の前方移動量は5.5mmであった. 術後矯正治療を7ヵ月行った後, 保定を開始した. 顎矯正術により咬合およびオトガイ部後退感は改善されたが, 術後2ヵ月頃, 口唇閉鎖不全の訴えがあった. 術後1年半経過した現在, 次第にその程度は軽減しており, 経過観察を行っている. 質問 九州歯大, 矯正 山田建二郎 硬組織の変化にあわせて軟組織をも拡張するという対応が必要と思いますがそれは可能でしょうか. 回答 広島大, 歯, 矯正 吉田志乃 硬組織の移動に伴う軟組織の変化ですが, 骨膜等の剥離を行わなかった場合, 移動方向や移動量に応じて過度な緊張が生じる可能性があると考えられます. しかし, 軟組織の性状に関しては個体差が大きいため, 個々の症例に応じて検討していく必要があると考えられます.
ISSN:0916-7048