角谷論文に対するEditorial Comment-冠動脈拡張症と急性冠症候群

緊急カテーテル検査を多く施行しているほとんどの循環器医が拡張冠動脈内の大量血栓の処理に難渋した経験をもっているといっても過言ではないであろう. しかし冠動脈拡張症例の急性冠症候群においてなぜ大量血栓を生じることが多いかに関しての明確な結論は出ていない. 角谷らが報告した, 急性心筋梗塞を合併した冠動脈拡張症の1例はこの疑問に関して示唆に富む大変貴重な症例と考えられる. まず本症例では急性期冠動脈造影では血栓性閉塞を認めるも血栓吸引のみで病変の良好な再潅流が得られたのみでなく, 拡張部位, 非拡張部位ともに軽度内膜肥厚を認めたのみであり, 急性冠症候群の70%に認められるプラーク破綻を認めなかっ...

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Published in心臓 Vol. 38; no. 4; p. 360
Main Author 松尾仁司
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本心臓財団 15.04.2006
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ISSN0586-4488

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Abstract 緊急カテーテル検査を多く施行しているほとんどの循環器医が拡張冠動脈内の大量血栓の処理に難渋した経験をもっているといっても過言ではないであろう. しかし冠動脈拡張症例の急性冠症候群においてなぜ大量血栓を生じることが多いかに関しての明確な結論は出ていない. 角谷らが報告した, 急性心筋梗塞を合併した冠動脈拡張症の1例はこの疑問に関して示唆に富む大変貴重な症例と考えられる. まず本症例では急性期冠動脈造影では血栓性閉塞を認めるも血栓吸引のみで病変の良好な再潅流が得られたのみでなく, 拡張部位, 非拡張部位ともに軽度内膜肥厚を認めたのみであり, 急性冠症候群の70%に認められるプラーク破綻を認めなかった. そして慢性期に施行したアセチルコリン負荷試験で非拡張部位に強い冠攣縮が誘発され, 本症例の心筋梗塞発症に冠攣縮の関与が示唆されることである. 冠動脈拡張症の自然予後に関する報告は少なく, Demopoulosらの報告によると冠動脈狭窄を認めない冠動脈拡張症に関しての予後は冠動脈狭窄症例に比し良好であることが示されている1). しかし狭窄を認めない冠動脈拡張症においても, 冠動脈血流予備能の低下や微小循環障害の存在, そして心筋レベルにおいても心筋脂肪酸代謝の低下が認められるなどの報告があり2), これらの異常は微小血栓形成の可能性を示唆している. そして本症例のように器質的狭窄を認めなくとも, 異常内皮機能から生ずる冠動脈攣縮などによる血流の停滞が加われば, 高度狭窄を有する冠動脈拡張症同様に冠動脈内血栓形成の危険性が増加することが推察される. では冠動脈拡張症の治療をいかに考えるのが妥当であろうか? 冠動脈拡張症に限定しての薬物療法に関して無作為試験は皆無であるが, 現在のところ, 拡張冠動脈血栓形成を抑制するための抗血小板剤2), そして本症例が示すように冠動脈攣縮の関与も示唆され, Ca拮抗薬やKチャンネル開口薬などの投与は妥当性があると思われる. またニトログリセリンなど亜硝酸剤の投与には慎重であるべきという症例報告も認めることも知っておく必要があろう3). 文献 1) Demopoulos VP. Olympios CD, Fakiolas CN, et al: The natural history of aneurismal coronary artery disease. Heart 1997;78:136-141 2) Nagata K, Kawasaki T, Okamoto A, et al:Effectiveness of antiplatelet agent for coronary artery ectasia associated with silent myocardial ischemia. Jpn Heart J 2001;42:249-254 3) Sanyal S. Caccavo N:Is nitroglycerin detrimental in patients with coronary artery ectasia? A case report. Tex Heart Inst J 1998;25:140-144
AbstractList 緊急カテーテル検査を多く施行しているほとんどの循環器医が拡張冠動脈内の大量血栓の処理に難渋した経験をもっているといっても過言ではないであろう. しかし冠動脈拡張症例の急性冠症候群においてなぜ大量血栓を生じることが多いかに関しての明確な結論は出ていない. 角谷らが報告した, 急性心筋梗塞を合併した冠動脈拡張症の1例はこの疑問に関して示唆に富む大変貴重な症例と考えられる. まず本症例では急性期冠動脈造影では血栓性閉塞を認めるも血栓吸引のみで病変の良好な再潅流が得られたのみでなく, 拡張部位, 非拡張部位ともに軽度内膜肥厚を認めたのみであり, 急性冠症候群の70%に認められるプラーク破綻を認めなかった. そして慢性期に施行したアセチルコリン負荷試験で非拡張部位に強い冠攣縮が誘発され, 本症例の心筋梗塞発症に冠攣縮の関与が示唆されることである. 冠動脈拡張症の自然予後に関する報告は少なく, Demopoulosらの報告によると冠動脈狭窄を認めない冠動脈拡張症に関しての予後は冠動脈狭窄症例に比し良好であることが示されている1). しかし狭窄を認めない冠動脈拡張症においても, 冠動脈血流予備能の低下や微小循環障害の存在, そして心筋レベルにおいても心筋脂肪酸代謝の低下が認められるなどの報告があり2), これらの異常は微小血栓形成の可能性を示唆している. そして本症例のように器質的狭窄を認めなくとも, 異常内皮機能から生ずる冠動脈攣縮などによる血流の停滞が加われば, 高度狭窄を有する冠動脈拡張症同様に冠動脈内血栓形成の危険性が増加することが推察される. では冠動脈拡張症の治療をいかに考えるのが妥当であろうか? 冠動脈拡張症に限定しての薬物療法に関して無作為試験は皆無であるが, 現在のところ, 拡張冠動脈血栓形成を抑制するための抗血小板剤2), そして本症例が示すように冠動脈攣縮の関与も示唆され, Ca拮抗薬やKチャンネル開口薬などの投与は妥当性があると思われる. またニトログリセリンなど亜硝酸剤の投与には慎重であるべきという症例報告も認めることも知っておく必要があろう3). 文献 1) Demopoulos VP. Olympios CD, Fakiolas CN, et al: The natural history of aneurismal coronary artery disease. Heart 1997;78:136-141 2) Nagata K, Kawasaki T, Okamoto A, et al:Effectiveness of antiplatelet agent for coronary artery ectasia associated with silent myocardial ischemia. Jpn Heart J 2001;42:249-254 3) Sanyal S. Caccavo N:Is nitroglycerin detrimental in patients with coronary artery ectasia? A case report. Tex Heart Inst J 1998;25:140-144
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