当教室における過去5年間の下顎発育性嚢胞の臨床病理学的検討

下顎に生じる発育性嚢胞の裏装上皮は通常扁平上皮であり, 線毛上皮や粘液産生細胞の出現は非常に希である. 今回, 下顎智歯部に生じた含歯性嚢胞の裏層上皮に線毛細胞の出現を認める症例を経験したので, 当教室における過去5年間の下顎発育性嚢胞の臨床病理学的検討を行い, その結果を報告した. 下顎発育性嚢胞症例の内訳は全症例112例中, 歯原性発育性嚢胞症例50例(45%), 含歯性嚢胞症例61例(54%), 腺性歯原性嚢胞症例1例, 側方性歯周嚢胞症例0例であった. この内, 線毛上皮の出現は7例に見られ全症例数の6%の頻度で見られた. 歯原性角化嚢胞症例は, 性差1.3対1と若干男性に多く認められ...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published in昭和歯学会雑誌 Vol. 20; no. 1; p. 129
Main Authors 吉澤美奈, 入江太朗, 前田由紀子, 相田忠輝, 薄井智美, 荒井滋朗, 河野葉子, 立川哲彦昭, 油井久美恵, 南雲正男
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 昭和大学・昭和歯学会 31.03.2000
Online AccessGet full text
ISSN0285-922X

Cover

More Information
Summary:下顎に生じる発育性嚢胞の裏装上皮は通常扁平上皮であり, 線毛上皮や粘液産生細胞の出現は非常に希である. 今回, 下顎智歯部に生じた含歯性嚢胞の裏層上皮に線毛細胞の出現を認める症例を経験したので, 当教室における過去5年間の下顎発育性嚢胞の臨床病理学的検討を行い, その結果を報告した. 下顎発育性嚢胞症例の内訳は全症例112例中, 歯原性発育性嚢胞症例50例(45%), 含歯性嚢胞症例61例(54%), 腺性歯原性嚢胞症例1例, 側方性歯周嚢胞症例0例であった. この内, 線毛上皮の出現は7例に見られ全症例数の6%の頻度で見られた. 歯原性角化嚢胞症例は, 性差1.3対1と若干男性に多く認められる傾向にあり, 平均年齢は34歳で壮年期層に好発する結果となった. 部位については66%が大臼歯部に生じていた. 含歯性嚢胞症例は, 性差2.2対1と男性に多い傾向があり, 平均年齢は37.2歳で壮年男性に好発し, 90%が大臼歯部に生じていた. 腺性歯原性嚢胞症例は, 50歳の男性大臼歯部に見られた. 全症例では男女比が1.8:1であったが, 線毛上皮が見られた症例では男女比4:3と若干男性に多く生じる傾向にあった. 全症例の平均年齢は35.9歳であったが, 線毛上皮の出現が見られた症例に限ると平均年齢は30.1歳であり, その内20代, 30代が71%を占めていて, 線毛上皮の出現は若い男性に生じやすい傾向がうかがわれる. 下顎発育性嚢胞全症例の発生部位は, 前歯部が7例, 小臼歯部が16例, 大臼歯部が89例で, 線毛上皮の出現が認められた症例はすべて大臼歯部であった. 線毛上皮の出現の機序は, 嚢胞壁の炎症性変化が弱く長期にわたっているものほど線毛上皮の出現が多い傾向にあることより, 炎症性変化による化生の可能性が高いと考える.
ISSN:0285-922X