膝関節手術中に突然死した肺動脈血栓塞栓症
肺血栓塞栓症は下肢や骨盤の深部静脈血栓症が進展して起こり, 重篤な転帰をとる疾患である. 日本でも近年増加傾向にあるが, なお症例数が少ないことから, 定時の整形外科手術においては, その診断法および治療法は確立されていないのが現状である. 今回われわれは膝関節手術中に突然心停止を来し, 剖検により著明な肺血栓塞栓症が明らかとなった症例を経験したので報告する. 症例は36歳の男性(身長180cm, 体重90kg)で, 左脛骨のプラトー骨折に対して, 観血的骨接合術が予定された. 術前2週間, 患肢はギプス固定されていたが, 車椅子による移動は可能であった. 術前検査および既往歴に特記すべきこと...
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Published in | 蘇生 Vol. 11; pp. 65 - 66 |
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Main Authors | , , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本蘇生学会
01.04.1993
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ISSN | 0288-4348 |
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Summary: | 肺血栓塞栓症は下肢や骨盤の深部静脈血栓症が進展して起こり, 重篤な転帰をとる疾患である. 日本でも近年増加傾向にあるが, なお症例数が少ないことから, 定時の整形外科手術においては, その診断法および治療法は確立されていないのが現状である. 今回われわれは膝関節手術中に突然心停止を来し, 剖検により著明な肺血栓塞栓症が明らかとなった症例を経験したので報告する. 症例は36歳の男性(身長180cm, 体重90kg)で, 左脛骨のプラトー骨折に対して, 観血的骨接合術が予定された. 術前2週間, 患肢はギプス固定されていたが, 車椅子による移動は可能であった. 術前検査および既往歴に特記すべきことはなかった. 麻酔は硬膜外麻酔(L2/3)で行った. ターニケットを使用し, 約1時間半後, x線撮影のため, 一時ターニケットを解除した. スクリューの方向を修正するため, 再びターニケットを加圧した. その10分後, Sp_O2が97%に低下したため, 深呼吸を促し, 一旦100%に改善した. しかし, 突然二段脈の出現とともに血圧は測定不能となり, 脈拍も触知できず, 自発呼吸および意識も消失した. 直ちに蘇生術を行ったが, 改善は認められず, 動脈血ガスデータでPa_CO2 106mmHg, Pa_O2 7mmHgと高度のガス交換障害を認めた. また血小板数は3.4万と顕著な低下を示したため, 肺血栓症を疑いウロキナーゼを投与した. しかしながら, 蘇生術に全く反応せず死亡した. 剖検により肺動脈の巨大な血栓が証明され, 患側の下肢には50cm以上に及ぶ静脈血栓が認められた. 急性の肺動脈血栓症の救命には, 深部静脈血栓症の段階で診断することが必要であると考えられた. しかしながら侵襲が少なく, 多数行われている手術において, 合理的に静脈血栓を検出するには, リスクファクターを複数有する患者を対象とした適切なデータの集積が必須であると考えられた. |
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ISSN: | 0288-4348 |