アフリカでの重症交通外傷後の発症のため診断に苦慮した熱帯熱マラリアの一症例

症例は58歳男性. 平成11年5月よりタンザニアに渡航中であった. 平成11年10月11日, 重症交通外傷にてケニアのナイロビ病院に入院. 多発肋骨骨折, 左肩甲骨骨折, 血気胸, 急性腎不全と診断後, 緊急開胸術, 透析療法などが施行され, 計6リットルの輸血を受けた. 経過中敗血症を併発し, 11月15日パリの病院に輸送された. 抗生剤投与などの治療を受け, 経過良好であったので11月21日帰国, 当科入院となった. 全身状態は特に問題なかった. 11月27日, 突然38℃台の発熱が出現. 白血球, CRPの著明な上昇および凝固線溶系の異常を認めた. 敗血症およびDICと考え, 抗生剤,...

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Published in日本輸血学会雑誌 Vol. 47; no. 1; pp. 45 - 46
Main Authors 達川政文, 澤山泰典, 鍋島茂樹, 林純, 柏木征三郎, 稲葉頌一
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本輸血学会 01.02.2001
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ISSN0546-1448

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Summary:症例は58歳男性. 平成11年5月よりタンザニアに渡航中であった. 平成11年10月11日, 重症交通外傷にてケニアのナイロビ病院に入院. 多発肋骨骨折, 左肩甲骨骨折, 血気胸, 急性腎不全と診断後, 緊急開胸術, 透析療法などが施行され, 計6リットルの輸血を受けた. 経過中敗血症を併発し, 11月15日パリの病院に輸送された. 抗生剤投与などの治療を受け, 経過良好であったので11月21日帰国, 当科入院となった. 全身状態は特に問題なかった. 11月27日, 突然38℃台の発熱が出現. 白血球, CRPの著明な上昇および凝固線溶系の異常を認めた. 敗血症およびDICと考え, 抗生剤, メシル酸ガベキサートの投与を開始したが無効であり, 徐々に貧血, 腎機能障害, 呼吸不全, 意識状態の低下が出現したため, ICU転棟となった. 12月8日, 末梢血液像に特徴的なring-formを形成した赤血球内寄生体および生殖母体を多数見出し, 熱帯熱マラリアと診断. 寄生率は11%と重症化しており, キニーネ点滴静注, メフロキン内服, アーテスネート坐薬の3剤を併用投与し, 持続血液濾過透析および輸血を施行した. 抗マラリア薬は著効し, 2日後の12月10日には, 寄生率0.67%となり, 抗マラリア薬を中止. 全身状態は徐々に改善し, 12月29日, 当科一般病棟へ転棟. 経過中誤嚥性肺炎の合併などもみられたが改善し, 平成12年1月20日リハビリ目的にて専門病院に転院となった. 本症例の場合, 全身状態悪化の原因を当初は重症交通外傷後の敗血症と考えていたため, 診断が遅れ重症化した. 抗マラリア剤と持続血液濾過透析が著効し救命しえたが, マラリアの高浸淫国からの帰国者が発熱した場合は常にマラリア症も視野に入れて鑑別する必要があることが再確認された.
ISSN:0546-1448